軍用機と言えば、武器弾薬をぶっぱなして敵を爆殺するというイメージがありますが、一発の銃弾も持たずに敵陣深く飛んでゆき、でも戦争を左右するような重要な役割を担う飛行機があります。
それが「偵察機」
前線においては、後方における敵の状況は分からず。一見いかにも脆そうな敵の防御網の後ろに想像を絶する火砲陣地を隠しているかも?など、後方の敵情を知ることが勝敗のカギを握っています。
「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」。
ナポレオンのような天才は、ロシアやプロシアの軍隊の動きを見て、その後方における実情を見通し、各個撃破などしましたが、飛行機の出現で、天才でなくてもふつーに敵の弱点などを探ることができるようになった。
第一次大戦当初は、連合国側も同盟国側も偵察員を乗せた飛行機を飛ばして敵情を探り。非武装だったので、途中で敵機と会っても、互いに挨拶して通り過ぎたらしい。
軍用機は偵察機で始まったということですね。。。
そのうち、機関銃を乗せても自らのプロペラを打ち抜かないですむ同調装置の発明によって戦闘機が広く使われるようになり。挨拶どころか、互いに56しあうようになりました。
同調装置によって、機軸に射線を合わせることができ、命中率が劇的に向上した
http://greendragon.car.coocan.jp/mywksothcamel02.htm
さらには爆撃機など、派手に敵を56しまくる飛行機が生まれたので、偵察機は目だたなくなりましたが、しかし偵察機が戦況を左右する重大なカギを握っていることには変わりはなく。
ミッドウエーで、せっかくアメリカ機動部隊を見つけた偵察機が、通信機の故障で味方に情報を送ることができず。日本側が空母4隻を喪失する重大な原因の一つとなるなど、偵察機はゲームチェンジャーとなる要素を持った恐ろしい飛行機なのである。
そんな偵察機とは、どんな飛行機なのか。
その1:長大な航続距離
第二次大戦の欧州戦線では、常時数百機に上る巨人爆撃機の編隊が雲霞のごとくドイツの主要都市を覆い、ドイツの工業を壊滅に追い込みました。
しかし、数百機とはいえ、一度に爆撃できる目標は限られている。主要都市といっても、ベルリン、ドレスデン、ライプチヒ、ハンブルグ、ミュンヘン、ケルンと、いくらでもあり。
どこがドイツ産業の生命線なのか?
スパイだのなんだのからの情報から、どうやらドイツのアキレス腱は「ボールベアリング工業」ということが分かってきた。この生産工場を灰燼に帰してしまえば、メッサー戦闘機もティーゲル戦車も動けなくなってしまうぞ!
そのボールべアリング工業は、シュヴァインフルトとレーゲンスブルクに集中しているらしい。
しかし、爆撃を成功させるためには
◎「シュヴァインフルトとレーゲンスブルク」のどのへんに諸工場が集中しているのか。
◎これら2都市に達するまでに、ドイツはどのような防空陣地を構築しているのか。
◎周辺のどの基地から、どのくらい数のメッサ―が飛んでくるのか
◎工場と住宅地がどんな感じで隣接しているのか。工場に爆弾を落とすつもりが、周辺の住宅街を焼き払うだけになってしまわないか
◎爆撃後の退避路は?イギリスにもどるか?あるいはアフリカへ向かうか?
要すれば綿密な爆撃計画が必要であり、計画策定に必須な上記の情報を収集したのが偵察機だったのである。
すみませんシュヴァインフルト‐レーゲンスブルク爆撃の偵察自体に使われたのかはわからなったのですが、こうしたドイツ内陸への偵察に重要な役割を担った偵察機があります。
その名も「スピットファイア」
あれ?スピットファイアって、ドーバー海峡を越えるていどで燃料切れになっちゃうんじゃなかったっけ?
そのとおりです。でも、それは戦闘機型です。
機銃とかを下ろして、写真機と燃料タンクを増設した偵察型のスピットファイアがありました。
ドイツの奥地まで侵入していったらしい。
動画Spitfire over Berlin https://www.youtube.com/watch?v=ljqPi-aVh8M
この映画ではベルリンまで行ったことになっています
要すれば、フツーの軍用機では到達できない航続距離が偵察機の特色ということですね。
その2:卓越した高空性能
軽飛行機で飛んでいて「もっと高く飛べたらなー」と如実に思います。
こんな飛行機で飛んでいます
性能上は、別にFL095(高度3000メートル)まではらくらくなのですが、ジェット旅客機の航路と干渉しないように、軽飛行機はせいぜいFL075(高度2500メートル)までしか飛べないことになっており。ぼくが日常飛んでいるブラジリア空港近辺では高度上限が原則5200フィート(1700メートル)なので、感覚的には低空をはいずり回る感じになってしまっています。
管制空域を脱して、2500メートルまであがると、うって変わって周辺の景色が見やすくなります。
高度が高ければ高いほど視認・視察できる範囲は累乗的に拡大していくのである。
日本が世界に先駆けて作った戦略偵察機の「百式司令部偵察機」も世界最高峰の高空性能をもっており。
「写真屋のジョー」「ビルマの通り魔」といわれ、日本陸軍いくところその最先端には必ずこの飛行機がいた。
隼がかくかくたる戦果を挙げることができたのも、常に百式偵察機がはるか奥地の敵情をめんみつに伝えたからという意見もあります。
百式偵察機は、与圧装置を備えたB29とも互角の高度まで上がれたほか、開戦当時は米英の戦闘機が追いつけない俊足を持っていました。
https://www.amazon.co.jp/ハセガワ-72-キ46百式司令部偵察機II型-プラモデル-CP5/dp/B00ADHICS2
高高度というと「U2」偵察機が代表的です。
高高度すぎて、U2のパイロットは宇宙服みたいなのを着て、酸素供給を受けないと一瞬で凍死してしまうらしい。
機体の方も、無理やり高高度まで上げているため、機体の安定が悪く、ちょっとでもパイロットが制御を間違うと、バランスを崩して失速していまうという恐ろしい飛行機になってしまいました。
U2偵察機 https://news.yahoo.co.jp/articles/12c998b40a205dc218f41092be678598a3e4aa9c
その3:速力
「我二追イツクグラマンナシ」
マニアの間では有名な言葉です。
彩雲偵察機というのがあり。当時最新の「誉」エンジンを積んで、日本機では達成できなかった高速性能を得ることができました。
武装を持たない(写真機と燃料でいっぱいっぱいの)偵察機にとって、スピードが生命線です。
ただ、日本の場合、悲惨なのは「我に追イツクグラマンナシ」で、はっきり言って鈍足の艦上機グラマンは振り切れても、米陸軍航空軍のピーシュータ―(追跡戦闘機)であるP51やP47には捕まって、哀れ火だるま、撃墜されてしまったらしい。
「誉」とはいえ、グリフォンとかのバケモノエンジンなどには比べるべくもなく。
非力なエンジンを120%活用するため、エンジン直径ぎりぎりに胴体を絞り込んだ、流麗というよりは悲痛な機体をみるにつけ、なぜ日本はこんな絶望的な工夫に訴えた飛行機を作ってまで戦争に突入しなければならなかったのかと、悲しくなります。
https://onemore01.blog.ss-blog.jp/2016-10-31
一方、余裕しゃくしゃく、なにげに優秀なエンジンをなにげに天才なパッケージでつつみ、大成功したのが「モスキトー」。
こちらはなにもいうことなし。デハビランドの双発機は、初代コメットやドラゴンラピードなど、とにかく美しいですね。。。
https://ameblo.jp/rx7fd3s917/entry-12491186336.html
最後は、やっぱりアメ公について
Dissertação ProfHistória Unespar_Sidney Catelão.pdf (capes.gov.br)
上の画像は、1942年にブラジルで販売されていた「リーダーズ・ダイジェスト」ポルトガル語版の広告です。
「一門の機関砲もなしに日本人を撃破」というタイトルで、以下要約ですが
「非武装のP38がラバウルの日本基地に低空偵察を敢行。写真撮影を終えるまでに零戦から銃撃され、エンジン1基がストップしたが、そのまま8キロ上昇し多数の零戦を引き離した。この写真は、サンゴ海海戦の勝利に大いに貢献した。ロッキードの飛行機はすごいぞ!」
はっきり言って、片肺飛行で8000メートル上昇なんて無理です。これは脚色でしょう。
でも、ほかの部分、つまり零戦の機銃でボコされながらも、零戦にはない上昇力と速力でまんまと多数の零戦を「まいた」というのは事実かもしれん。
P38にしろモスキートにしろ、偵察だの戦闘だの爆撃だの、なんでもござれの余裕しゃくしゃくの飛行機を無数にそろえた米英と、彩雲など、一つの目的に特化してなんとか世界を凌ぐ飛行機を作ろうとした日本。やっぱり食い物が違うのかもしれませんね。
ではでは
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