上昇と水平飛行。おそるべしトリムの破壊力

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上昇と水平飛行。おそるべしトリムの破壊力

前回で、無事に離陸に成功し、無風の時は一直線に、横風が強いときは機首を風上に向けて横滑りしながら(A1)飛行高度までの上昇に入ります。

上昇といっても、なるべく短い時間で高い所へ上がる必要がある場合、あるいはなるべく短い距離で高い所に上がる必要がある場合などあり。前者はスクランブル発進の戦闘機、後者は山地に囲まれた空港からの離陸などが該当します。それぞれに対応したスピードで上昇して行きますが、ぼくのホームベースである飛行場は岡に囲まれており、後者に該当するので、60マイルから50マイルの間、機首上げ15度くらいで上がってゆくと、上昇率1分あたり800フィートで、いい感じでのぼっていきます。

上段左から昇降計、人工水平儀、速度計。下段右が高度計。

上昇時に気を遣うのがまずスピード。機首を上げすぎて失速なんてなっちゃわないようにします。そして、離陸したらすぐ全開から上昇出力にエンジンを絞るのですが、これでもガンガン力行している状態であり、低速で機首が上を向いているため冷却もままならず、ラジエター温度、油温も気を付けます。高温多湿の状態で上昇が続くと湯温がイエローラインに近づくことあり。そういった場合はしょうがないのでいったん水平飛行に移り、空気取り入れ口から冷たい外気を取り込むとともに、スロットルを緩めてエンジンを冷やします。人間にとってはなにげに普通の気温でも、エンジンにとっては暑い暑い!高度6000フィート、外気温度が一けた台に近づいてやっとエンジンに優しい温度になります。

ちなみに上昇角度15度というのは、水平線と翼の支柱(とくに補助支柱の白い三角)が交差する角度を見ていただくとわかりやすいとおもいます。

こんなかんじ

15度の機首上げだと、前方の視界は機首にさえぎられて青い空だけになります。青空だけならいいですが、前方に雲や霧が迫ってきたら横を見るなり、必要に応じ機首を振って文字通り後ろを振り返るなり、ちゃんと地面の見える雲の隙間があるか確認しないと危ない。計器飛行装置のない軽飛行機(人工水平儀などでは不十分です)は、地平線が見えない状態では絶対飛行してはいけません。とくに低速、不安定でエンジンに負担のかかっている上昇中に雲にはいっちゃったら「空間識失調」で墜落が待っているので、前方を雲でふさがれたら引き返すのが鉄則です。

あと、前が見えない、というのはなかなか微妙で、まだ操縦練習生のころ、ラジオで周辺に飛んでる航空機がないか確認しつつ上昇していたら、まず隣の教官が恐怖の表情になり、そのつぎにやはり上昇中の軽飛行機がお腹をみせて目の前を斜めに横切っていったことがありました。このときは向うの飛行機のほうでラジオをつけ忘れていたか、間違った周波数のまま忘れていた可能性大です。向うも機首上げだったので、腹の下から迫ってくる我々の機が見えなかったし、結局我々の存在も気づかずにのこのこ登って行ったものとおもいます。

さて、ニアミスなどもなく、無事にフライトプラン(C1)で指定した飛行高度にたどり着きました。いよいよ水平飛行に移ります。

まず、上昇を止めるのですが、機首を水平にしても100フィートぐらいは上がっちゃってから止まるので、その分早めに機首を水平にします。上昇から水平への移行は、①まず機首を押さえて水平にする。②速力がぐーんと上がってくるので、目指す速度に達したらスロットルを引いて安定させる。③トリムで水平状態での安定を確立し、操縦かんが中立でまっすぐ水平飛行するようにする。と順を追って操作します。順番を間違えるいつまでも飛行機が安定せず、管制から怒られたりします。

ここで大切なのがトリムです。これは水平尾翼の昇降舵の先についている小さな舵面で、この小さな舵を適切な位置に調節することで操縦かんを離しても昇降舵が適正な位置で押さえられ水平飛行が可能となります。気流の状態によっては操縦かんを押さえるのに力がいり、ものの10分と立たないうちに腕が疲れて抑えられなくなっちゃうのですが、トリムを上手に使えばそんな状況でもトリムが操縦かんを押さえてくれ、手を放してもまっすぐ飛んでくれるようになります。

高度5000フィート、速度95マイルで水平飛行。画面右下の「TRIM」と

書かれた計器に注目。上下最大の中でほとんど真ん中の位置で設定さ

れていることが発光灯でわかります

トリムはハンドルみたいなのをくるくる回すホイール型と、電気スイッチで作動するタイプがあり、こよーての場合は電動式で、上記発光灯の左にある黒いスイッチで上下どちらかに作動させます。

トリム操作は慣れないとなかなか難しいですが、初心者が感触をつかむ方法として、離陸前に最大機首上げポジション、つまり、滑走、離陸、上昇を通じて操縦かんを前に倒すような力を加えておかないと後ろに倒れちゃう、くらいにセットしておき、水平飛行になるとさらに前に力を入れてえいやと倒します(実際は中立の位置になります)。一方の手は力まかせに操縦かんを押さえている段階で、もう一方はトリムを少しづつ機首下げ姿勢になるように調整すると、操縦かんが手にかけているプレッシャーが少しづつ減ってゆき、ある一点で操縦かんから手を放してもぴたりと動かず、飛行機は直進する位置が来ます。これを超えると今度は操縦かんを上昇させるように抑えないとトリムが勝手に機首下げを誘発するようになります。

上記の写真はトリムが効いたときに両手を離して取りました。トリムは一種の自動操縦装置で、パイロットの疲労を大幅に低下させるステキな装置です。

写真右上、昇降舵左端がトリムタブ。写真右下がタブを作動させるシャフト。

写真左では方向舵左端四角いでっぱりがタブで、これは固定されており、

ペンチでひん曲げて調整します。

さて、手放しでも水平にとべるようになったら、今度は垂直面での操作を学びます。それは次の記事で。ではでは。。。。

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