駄作シリーズその2。その1はこちら→名機の条件:零戦はなぜ駄作になったか(暗号通貨女子さん、リンクありがとうございます)
以前、F6FとP47という2つの飛行機についてちょっとだけ書きました。
とても興味深いものがあったので、あらためて書いてます。
両方とも、第2次大戦の後半で大活躍したアメリカの戦闘機です。
F6F(左)とP47(右)https://www.youtube.com/watch?v=Ydf0-QadMlY
そして、両方とも「ライトサイクロンR2800」という、これ以上ない高性能エンジンを装備していました。
でも、類似性はこのへんで終わってしまい。
P47が、だれからも称賛され、P51などと比肩して世界一の座を争った(特にパイロットからは抜群にP47のウケがよかったらしい)のに比べて、F6Fとなると、なにそれおいしいの?と、そもそも誰も知らないか、知っているマニアから見ても「P47と同じエンジンなのにどうしようもない駄作機」という哀れな烙印を押されてしまっているのでした。
誰がF6Fをそうさせたか?
「真相はこうだ」
まず、P47を見てみます。
源泉は、P35セバスキーというスピード競技機。
P35
Williams Bros. 1/32 Seversky P-35/SEV S-2 | Large Scale Planes
「未来の飛行機はとにかくスピードだ!」と、エアレースで輝かしい成績を残し。スピード機のくせに、ギアは半分くらいしか引っ込まないとか、まるで努力して空気抵抗を増やしているようなスタイルなのですが、当時は、どうがんばっても構造的にどん亀にならざるを得ない複葉機が主体の時代であり。単葉でキャノピーにすっぽり覆いがかかった未来的なスタイルを見て、米軍も手ごたえを感じたらしい。
もうちょっとスマートなP43ランサーを経て、順調にP47に発展しました。
この間、P35が太平洋で零戦にけちょんけちょんにやられたりしていたのですが、アメリカは、そんなことよりもっと戦局を左右する重要なことに気が付いてしまったのであった。
それは
◎戦闘機を何百機落とされようがそれで戦争が終わるわけではない。
◎英国の戦いにおいて、前線よりはるか後方にある敵のライフライン(工業地帯)をヒットする戦略爆撃が実現可能であることが明らかになった。
◎といって、丸腰の爆撃機だけでは敵戦闘機の餌食になってしまう。ドイツの英国爆撃が成功しなかったのは、英国の戦闘機がドイツの爆撃機をやっつけることができたからである。
要すれば「ともかく敵の主要産業地帯に爆弾の雨を降らせることができれば戦争は勝てる」のだが「どうやれば安全に敵の産業地帯まで爆弾を運ぶことができるか」という重大課題が明確化されたということであり。
アメリカは2つの回答を用意しました。
その1)落としても落ちない爆撃機を雲霞のごとく放つ。
56しても4なないB17爆撃機 Pixabay無料
ただ、落としても落ちないはずが、ドイツ戦闘機の奮戦や、太平洋では空対空特攻などのキチガイ沙汰により、場合よっては出撃機数の3分の一近くが落とされ。下手をすると戦争の遂行が危うくなったため、さらに
その2)爆撃機を援護する戦闘機を雲霞のごとく解き放った。
といって、この援護は、並みの戦闘機ではできない離れ業だった。
「落としても落ちない爆撃機の援護」です。
防弾装置だの防御機銃だのと言った基本の他に、アメリカが編み出した秘策が
「ともかく高空を飛ぶ」というものであった。
B17からB29に至る過程で高度8千メートルから1万メートルという狂った巡航高度をもつようになり。
この高度をふつーに随伴できる数少ない戦闘機がP47だったのである。
零戦の実用高度が6000メートルくらいであり、戦記物などでは「高度8000メートルを超えれば許可なくして酸素マスク着用する」などの記載がありますが、日本の戦闘機で高度8000メートルなんて、当時の神パイロットだからできた神業なのである。
なんで上がっていけないのか?その答えが、上に書いた「酸素マスク」に凝縮されています。
飛行機のエンジンは、酸素と燃料を燃やして回転エネルギーに転換しています。
しかし、高度3000メートルを超えた段階で、早くも酸素が不足しだすのであった。
とても高度1万メートルなんて。。。というのが日本機には偽らざる実態だったのである。
なぜB29やP47が、超高空でもユウユウと飛行できたのか?
その秘密が「排気タービン過給機」
エンジンの排気噴流でタービンを回して大気を無理やり圧縮し(空気の中の酸素含有量を無理やり増やし)。1万メートルの高度でも2000メートル程度か?とおなじ酸素密度でエンジンに送りこむという装置を実用化させてしまったのである。
排気タービン過給機。P38の例 https://hjweb.jp/article/746366/
恐るべしアメリカ。
別に排気ガスでなくても、エンジンの回転軸そのものでタービン回せばいいじゃん?
はい、ドイツや日本が、そういう「機械式タービン」でがんばった。でも、機械式はタービンに回すエネルギーのロスが多すぎて、ある程度以上は機能しなかったらしい。
排気ガスなら、エンジンにとっては余剰エネルギーですからねー
ただし、重要な問題があった。
それが「温度」
大馬力、大出力の航空エンジンは、排気ガスの温度も殺人的に高くなり。
エンジンから放出するだけなら何とかなったが、これをタービンまで導いて回転させる、となると、回転以前に、導管やタービンそのものが熱で溶けちゃうのでした。ははは
材料技術が重要になり。ニッケル系のレアメタルをいかに加工するかが勝負になってきた。
こうした資源に恵まれなかった日本やドイツはこの時点でアウトだったのである。
資源さえあればいいのかというとそうでもなく。
なんとかタービンに使えるまで冷却しても1000度くらいにはなってしまうそうで、敵弾が当たって穴が開いたなんて時にパイロットが溶けちゃった、とならないようになるべく操縦席から離さなきゃなど、冷却装置や配管が決定的なカギを握るようになり。
P47は、機体の大半が冷却装置や排気タービンで占拠されるという恐ろしい構造になってしまいました。
https://motor-fan.jp/tech/article/9436/
エンジンに排気タービンがついているのか、排気タービンにエンジンがついているのかわからくなってしまったP47。
結果、当時世界最大の単発戦闘機になってしまい。
でも、十分に酸素のある空気を供給されたエンジンにより、P47はどんな高空でも機敏に動ける傑作機すなわち相撲取りもびっくりの「動けるデブ」になったのである。
ただ、でかくて重い図体では、航続能力がちょっと。。。。
決して短いというのでもなかったのですが、B17がドイツに奥深く侵攻するようになるに従い、もっと航続力のあるP38に交替しました。
連合軍戦闘機の行動半径の増加 http://ktymtskz.my.coocan.jp/E/EU5/bomb3.htm
このころになると、P47は、こんどは地上攻撃を行う戦闘爆撃機として、それこそ地を這うような低空で大活躍するようになったのでした。ははは
さてF6Fです。
こちらはスケルトン画像を見ていただければ一目瞭然ですが。。。
https://conceptbunny.com/grumman-f6f-hellcat/
エンジンから後ろの胴体にはタービン過給機や導線などはなく、がらんどうです。
こちらは機械式2段2速の過給機で、それでも零戦の1段2速よりは広い高度幅でエンジンの効率を保てたらしいが、P47に比べたらはるか下方でヴいヴいいっているだけみたいになってしまったらしい。
艦上戦闘機なのである。空母や艦船の浮かんでいる高度ゼロからの中低高度で、どんな敵機がこようが、それがゼロファイターであっても排除できるという性能が要求され。
F4Fの段階ですでに零戦に敢闘しており。排気タービンなんて必要ないや、それより装甲を固めまくり、ギアの格納を全自動にするとか(F4Fはきこきこ手動クランクで格納していた)、ものすごく使い勝手はよくなったが、ものすごく重くなってしまい。翼面荷重など、艦上戦闘機としての性能を考えると、スピードはやっと零戦を追い越せるくらいのどん亀になってしまいました。
しかし、零戦相手にはとても有効であり。
だいたい、1機が零戦の銃弾を吸収している間に無線で仲間を呼び。寄ってたかって包囲して袋だたき、というやり方で零戦隊を壊滅させたそうです。
制空権をぶんどったあとは仲間のアヴェンジャー雷撃機が日本の艦船をしらみつぶしに沈めていった。
グラマン アヴェンジャー https://www.htmodel.sk/en/grumman-tbf-1-avenger-1-72-academy/
こうして「F6Fが参戦した日からアメリカの勝利が始まった」といわれる決定的な貢献をしました。
でも、日本人をのぞけば、F6F?なにそれ?なんですよねー
F6Fは、低空で敏捷に逃げ回る日本機を、同じ敏捷さでつかまえるのに特化した進化をしてしまったので、欧米での本流である高空決戦にはついていけなくなってしまった。対日戦終結とともに、F6Fが空母から投棄つまりぽんぽこ捨てられたという悲しい事実があるのです。
「狡兎死して走狗烹らる(こうとししてそうくにらる)」。天下取りの後、功臣が、用済みだ!と粛清されてしまうような、F6Fの悲しい末路でした。
ではでは
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