パイロットの格言に「離陸はするもしないが自由だが、着陸は義務だ」というのがあります。
地上にいる限りは、今日はなんか風が強いから離陸はやめよっと、と自在に決めることができますが、いったん上がっちゃったら、天候が急変して烈風逆巻く荒天になろうが、着陸を逃れることはできず。突風にもまれながらの着陸という恐ろしい事態に陥り、木に登って、降りられなくなったネコみたいになっちゃいます。
なさけないなあ
https://mofmo.jp/article/24173
離陸や上昇は、機軸をまっすぐに保ってエンジンをぶんまわせば、自然にふわふわと上がっていくのに比べて、着陸は、失速間際までスピードを落とし、墜落寸前、スピードが遅すぎて舵も効きにくい状態でよたよたと降りていくので、操縦で最も難しい操作だったりします。うまくいけばふわっと降りますが、突然下降気流などで、どちん!ふぎゃー!なんて時もあります。
「脊髄反射」では反応しきれない、 急な気流の変化で落着しても壊れないよう、特にメインギア(主脚)はびょんびょんたわんで衝撃を吸収するようになってはいますが、ぼくの乗っているような空虚重量280キロの軽飛行機では、脚も極力軽くするために、申し訳程度のバネがあるのみで、パイロットがうまく着地の衝撃を殺さないと、ギアを壊してべそをかきます。
衝撃を殺す奥義が「フレア」。
滑走路に正対して、風の穏やかな日はるんるん♪、乱気流の日はふぎゃぎゃー!ともまれながらも、エンジン操作と操縦かん・ペダルの操作でなんとか「降下率3度」の降下経路を維持して降りていきます。
ぼくのホームベースでは、降下率、というより昇降計の針が500f/minから1000f/minの間に収まるように降りていきます。
昇降計
接地目標点までそのまま降りていく方法①もあるが、田舎の短い滑走路では、滑走路手前の遮蔽物を過ぎたときにスロットル全閉、一瞬機首下げしてひょいと滑走路端で高度をゼロ近くへ落とします②。
短い滑走路を長く使う秘法
でも、①であろうがに②であろうが、そのままだと、どちん!と「飛行機を地面にぶつける着地」になってしまいます。
ここで「フレア」の出番です。
基本は、滑走路に飛行機が近づくにしたがって少しづつ操縦かんを引いて機首上げをします。
そのまま操縦かんを引いていくに従い、スピードは落ちるが機首が上がり揚力が増すので、落下率も減少してゆき。滑走路の上を漂う感じになり。
浮力じゃなかった揚力がなくなった瞬間に、メインギアが、きゅん!と着地。
でもまだまだ操縦かんを引くぞー!機首上げのウイリー走行で、さらに機速が落ちてゆきます。まだ機首を上げておくくらいの揚力は残っているためです。
そして操縦かんを腹にくっつくくらい引ききったそのせつな、ふわりと機首が落ちて、とんと着地。というのが一番幸せな着陸です。
こんなふうにうまくいった日は、一日はっぴーです。
滑空とフレアについてうまく表現した図。
でも、フツーは、メインギア着地の時点でまだ降下エネルギーが残ってしまっていて、ギア着地と同時に機首を下に振ろうとするので、フレアをぐっと強くして(操縦かんをちょっと早く引いて)ウイリー状態を保つようにします。
こういう着陸もまあまあ満足。パーフェクトじゃないけれど。
でも、あるあるなのが、操縦かんを引くのが間に合わず、主脚と前輪が間を置かずに、ちゅん!ちゅん!と接地する着陸。
前輪式飛行機であればこれでなにも文句はないし、見知らぬ滑走路に着陸する場合は、こういう着陸で前輪での操舵性を確保して、とにかく滑走路上での安定を確保したいケースもあり。
でも、基本は上に書いた「ウイリー着陸」です。これを普段から練習しておかないと、ポーポイジングという恐ろしい現象を引き起こすことがあります。
ポーポイジング、あるいはバウンシングは、接地時に落下エネルギーが残りすぎてしまっており、主脚、前輪がどん!どん!と地面に「ぶつかる」のみでなく、反動で大きく機首が上がっちゃうときがあぶない。ぐっと機首上げ姿勢になっていらぬ揚力が生まれた機体は、ぼよよーんと機首を上にして地面から跳ね返り、でももともとスピードはそれほどでもないので、そのまま失速、機首を下に振って、今度は前輪からどん!とおっこち、またしてもぼよよーん!と跳ね返ります。
始末が悪いのは、跳ね返るごとにこのバウンシングはますますひどくなり、ついには文字通り機首から墜落、前輪を折っちゃうという事態になってしまいます。
https://www.youtube.com/watch?v=x5ZzktAFJK4
というわけで、運悪く、ポーポイズだ!と気づいたら(2回バウンドしたら)、ともかくエンジン全開だ!揚力を増大させて落下を止める。機体が水平でとまり、まだ滑走路があったらそのままもう一度フレア開始してもいいし、あるいはゴーアラウンド(着陸をあきらめてエンジン全開、上昇)というのもある。
つまり、飛行機が着陸したくないのに、パイロットが無理に接地させようとした時にポーポイズは起きる、ということですね。
言い換えれば、接地するまえに速度や降下などのエネルギーがすべてコンマ0.000Xになっていなければならないということである。
零戦乗りは「滑走路上3寸で失速させろ」と言っていたらしい。
このために必須の操作がフレアです。
かんぺきにフレアができていれば、ぐん、と機首が上に向いた状態でちゅん、と主脚が接地し、そのまま滑走路を滑ってく感じになる。
でも、着陸は毎回風向きや強さ、だけでなく、気温や湿度などでもコンディションは大きく変わってしまうので、パーフェクトな着陸、というのはなかなか至難なのです。
今どきの前輪式飛行機は、エネルギーが残った着地でも、機首を下に振るので、よっぽどでなければそのまま地面をつかんで止まってくれますが、尾輪式は大変で、ちょっとでもエネルギーが残っていたら、メインギア着地と同時に尻が下に振られ、ぼよよーんと機首を上に向けて跳ね上がってしまい。その後は機首から墜落、と即ポーポイズ状態になってしまうらしい。
そんなこんなで、尾輪式の操縦はとてもシビアです。僕は前輪機乗りだけれど、いつか尾輪式を乗りこなせる本物の飛行機乗りになりたいと思っています。
実際の着陸を録画しました。
ほんとうは上の写真の通り左側の座席にいますが、自撮りなので、動画では反転して右側になっちゃってます。ご了承おねがいします。
https://www.youtube.com/watch?v=zzyK_Elz05s
ダウン・ウインド・レグで撮影開始。1:28でフラップ1(カチッと音がしてます)。1:37で第3旋回点の旋回。ベースレグに入り。2:07で第4旋回、ファイナルに侵入。2:50でフラップ2。3:28でくらいで滑走路を長く使うための機首下げ(上記画像の②)、すぐ操縦かんをもどして3:35あたりからフレア開始。3:40から3:41の境目でメインギア接地。そのまま滑走して、3:46あたりでおなかまで操縦かんを引き切りると同時に浮力を失った機首が下がって前輪が接地、となりました。4分の動画はながいぞ!というせっかちな人は、2:50あたりからご視聴ください。ははは
別にコクピット目線から1分の動画を作っています。別の日の着陸で、上のと微妙に違っており。着陸って、一回一回がアートですよね。。。。
こちらからご視聴ください→ https://www.youtube.com/watch?v=yZcao-SFzXY
微風の好条件でした。0:03あたりでフラップ2をおろしています。0:36くらいで滑走路を長く使うための機首下げ(上記画像の②).。こちらの動画のほうが大きくできています。0:40あたりからフレア開始。0:46でメインギア接地。そのまま操縦かんを引き続けますが、浮力がなくなり0:50でノーズギア接地。
小型飛行機は失速速度30ノット、接地40ノットくらいのところを、滑走路上は容赦なく10ノットから20ノットの風が吹きまくる日も多く。風にもまれながらというなかなか容易ならざる世界では、あります。
滑走路上の風は20ノットでも、エアバスとか737の着陸速度は150ノットくらいなので、風なんてなんぼのもんじゃーい!らしい。でも、巨大なフラップを広げて、リバースをかけて無理やり停止なんて狂ったまねは、ぼくにはとてもできませんねえ。もちろんそれでぜんぜん安全ですけど。でも、やっぱりブレーキがなくても自然に止まっちゃうLSA軽飛行機のほうがいいなあ、なんて思っています。
こんな飛行機に乗っています
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