気流を見た人:ケリージョンソン

むかしむかし、アメリカにジョンソン少年というかわいそうなクソガキがいました。

鉱山労働者の息子で、要すればストリートチルドレン一歩手前の境遇で育ち。ろくな飯も食えずに育った割には、いじめに来たガキ大将を返り討ちにして、クソガキ仲間から「ケリー」という称号をもらったとか、暗い荒んだ少年時代を過ごしたらしい。

しかし、ケリージョンソンにとって、暗かろうが荒んでいようがそんなことはどうでもよく。

とにかく機械が好きだった。13歳の時には新聞の広告を見て、自宅の自動車を修理したなど、ただのクソガキではなく、機械工学の天才に、知らないうちに育っていたのだった。

当時は、ドサ周りの曲芸飛行士がその辺の田舎を飛び回っており。ジョンソン少年もなけなしの貯金をはたいて体験飛行に乗せてもらったのが運の尽きで、空を飛ぶことの魔力に取りつかれてしまい。

絶対飛行機のテストパイロット兼エンジニアになるぞーと誓ってしまったのだった。

Clarence Leonard “Kelly” Johnson パブリックドメイン

 

 

底辺労働者の息子だった割には高校まで卒業し。さてどっかの鉱山で底辺労働者だねーとはならず。

高校での狂った成績や、機械工学に関する、オタクではすまされない、別世界を行くような発想や知見により、仲間や教師たちが後押しや援助してなんとフリント・ミシガン大学に入学したのだった。

修士号、博士号をあれよあれよという間に取得し。

よしよし、いよいよテストパイロットになってやる!と陸軍航空軍を受験。

なんか技能面、体力面のテストがあったらしいが、体力面はフツーにクリア。技能面では試験管を狂乱させるほどの優秀さを示したらしい。

航空軍側も、なんかすごいのが乗り込んできたぞ!と騒然となり。

しかし、視力検査であっさり不合格になってしまい。

航空軍側も、こいつは何とかして合格させることはできないか、とまた騒然となり。

あーでもないとこーでもないと大騒ぎした結果

「アメリカ陸軍航空軍には規格に合わない奴を置いておく余裕はない」と、にべもなく切り捨てられたのでした。

ははは

しかし、単に切り捨てられたのではなく。いろいろあって、気が付いたらロッキード社の設計技師になっていた。

そこでもさっそく話題になり。

「こいつは気流を視覚化できるのではないか?」

飛行機の設計には、やれ抗力だやれ揚力だと、空気力学、流体力学のキチガイになりそうな計算が必要なのですが、その計算を暗算でやってしまうというか、そもそも結果が閃いてしまうというのか、時代劇でいえば「暗闇の中に白い電光が見え、光の通り刀を振り下ろしたら、敵が血まみれになってもがいていた」みたいな、たとえが悪いかもしれんがそんな感じだったらしい。

もちろん1日18時間労働だの、考えて考え抜いた末に、の「白い光が見えるんだ」だったらしいが、それでも周囲から見たら、ベテラン技師の経験をもってしても得られないようなあっと驚く解決策をズバズバ、という感じだったらしい。

そんなケリージョンソンのもとに、米陸軍航空軍から戦闘機設計の依頼が来た。

当時すでにメッサ―やスピットが初飛行しており。アメリカもP36とかはあったが、がんばってP40にバージョンアップしたところで出遅れは目に見えていた。

P36 https://aerocorner.com/aircraft/curtiss-p-36-hawk/

 

 

後追いしているだけでは水を開けられる一方だ!なんか次元の違うものを作らなくては!

次元が違うというのなら、宇宙人にやらせよう。ということで、あのときの怪人ケリージョンソンに「プロポーザル X-608」が提示されたのだった。

その内容は。。。

  1. 速度と高度の絶対的重視

高度6,100メートルで時速580 km/以上を達成すること。アメリカのどの戦闘機も到達していないものであり、世界最高水準だった。

上昇能力: 高度 6,100メートルまで6分以内に到達する能力。敵の爆撃機を迅速に迎撃するための、高い上昇率。

  1. 迎撃と破壊を目的とした強力な武装

集中火力: 最低454kgの武装(機関砲と大口径機関銃)。25mm機関砲1門と12.7mm機関銃4挺という狂った火力。

意外にシンプルで、どこかの零戦みたいに「格闘性能ニオイテ九六艦戦ニ劣ラザルコト」みたいに、余計なというかすべてを台無しにするようなことは書いていなかった。

要求そのものは別次元だが、しっかり方向性が明確化されていて、達成方法も極めて自由という、いかにもアメリカらしい奔放としたものだったのである。

方向性が全くなく、すべてをやらせようとして結局何もできない例

https://note.com/hyamaguchi/n/n0c60c7292ec3

 

 

それを、アメリカ人から見ても宇宙人だったケリージョンソンが手にしたらどうなるか。

よし、世界最高のPursuiter(パーシューター、追跡機)を作ってやるぞ!

まずはエンジンです。

アメリカの仕様書は、こうなっていた「”USAAC Design Competition X-608. Twin-engined fighter with supercharged engines. February 1937.”」

というわけで、要求の段階で双発ということはコンセンサスであった。

もっとも、当時アメリカで使用可能なアリソンエンジンでは、双発にでもしないと必要な出力が得られないという事情もあった。後のエンジン王国もこの当時はほにゃららだったのである。

これって、ドイツのBf110や、日本の屠龍と同じじゃね?

危うく同じになるところだった。

しかし、ここで宇宙人ケリージョンソンの真価が発揮されたのである。

 

戦略爆撃が現実化してくると、2つの課題が明らかになってきた。

その一つは迎撃。雲霞のごとく襲いかかってくる爆撃機に向けてスクランブルで一気に上昇し、スピードと火力で叩き落す。鍾馗だの雷電だのといった単発重戦闘機が該当。

もう一つは援護。遠く敵国内のライフラインへ殴り込む爆撃機と一緒に行って帰ってこれる航続力が必要だった。こちらは必然的に長距離を安定して飛べる双発機となった。零戦は例外。

 

当時、双発戦闘機というと、爆撃機と一緒になって、はるか遠くの敵地上空で群がる敵迎撃機を撃破する、という常識が出来上がってきており。

この常識だと、爆撃機と同じスピードで同じ高さを同じ進路で飛び、複数の乗員に爆撃機みたいな防御銃火を備えて。。。とどうしてもなってしまうのであった。

Bf110 https://www.recoverycurios.com/messerschmitt-bf-110

 

 

屠龍 https://www.webmodelers.com/201311toryu.html

 

 

ケリージョンソンにとって、同じ進路だのはどうでもよかった。

ともかく、キチガイみたいな上昇力であっというまに敵編隊の上まで上がり。これまた狂った集中火力で敵編隊を片端からみじんに粉砕してやるぜー!

 

双発機のくせに限りなく単発機に近くなった。BF110や屠龍が乗員2名、うち1名が後部銃手なのに、P38はそんなことはお構いなく、乗員は1名。機首に機関砲を集中した。

双発にすると、当然ながら機体は串に団子を三つ刺したみたいになり。団子一つの単発機より空力では相当のマイナスになるはずだったのが、むしろケリージョンソンは真ん中の団子に機銃を集中配置して爆発的な火力を得ることに血道をあげ。残りの2つの団子は極力細くして弱点を補った。双胴形式にしたことは、エンジンの後ろに排気タービン過給機や車輪格納庫など持って行き、「細く長く」で空気抵抗の軽減に貢献した(有害抵抗面積を抑えた)。

中央ナセルがめちゃくちゃ細くなり、事実上ガンポッド化している点に注目

https://www.aircraftaces.com/p38-lightning.htm

 

 

細長くなった双発エンジンのナセルというか胴体というかの先を水平尾翼でつなぎ、なるべく小さく垂直尾翼を付けたら、P38という怪機になった。

知らないうちに、アメリカは世界最強(でなければそれに近い)の戦闘機を作っていたのである。

もちろん、常識なんて知らないよ~んの怪人ケリージョンソンの設計した飛行機です。常識ある使い方をしているうちはろくな結果を出せなかった。

零戦と中低高度で巴戦になり。「ぺろはち」だの「めざし」だのとさげすまされたのは皆さんご存じのとおりです。

そこはアメリカ人は頭がよく

「戦闘機だからといって格闘戦をする義務なんてねーじゃん」ということに気が付いた。

零戦の上がってこれない高度に、零戦でさえついていけない上昇力でぐわーんと上がっていき。あとははるか下方でくるくる回っている零戦に狙いをつけてハヤブサのごとく急降下し、機首に並んだ大火力機関砲であっという間に粉砕してしまった。

こういうP38ならではの使い方をして、グラマンよりも多くの戦果を挙げた撃墜王を生んだのだった。

https://planesoffame.org/aircraft/plane-P-38J

 

 

ジェミニ君情報ですが

◎P-38 リチャード・ボング 40機

◎F6F デビッド・マッキャンベル 34機

◎F4F ジョー・フォス 26機

怪人ケリージョンソンが生んだ怪機P38。「エネルギー戦」すなわち急上昇からダッシュし高度差を有利に生かすという新たな常識を実行可能にし、「用兵すなわち飛行機の使い方が飛行機の性能に追いついて戦果を上げた」という恐るべき実例ですね。

*あと、零戦をもしのぐ航続距離で、山本長官機を撃墜という「卑劣作戦」もありますが、3000字を超えており、マニアの皆さんすでにご存じなので割愛。

ではでは

 

 

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