インフレ!借金は返せるのか?
日本の人たちの考えで「インフレ局面下では、借金が返しやすくなる」というのがあります。インフレの分だけ資産の価値は高くなるが、負債の金額は契約時そのままなので、資産価値―負債額の分だけ返しやすくなる、というのです。
例えば1年に2%の「黒田インフレ」が実現したとします。
- 100円の資産の価値は、2%増え102円になる。
- 100円の負債の価値も、102円になりますが、金額は100円のまま。
- 102円―100円=2円得した
となるのですが、ぼくはこの理論に賛成できません。
問題は、(A)負債を払うための収入が増えるかどうか、そして(B)本当に負債の金額が維持されるのか、だからです。
ドイツを狂乱インフレから救ったレンテンマルク
シミュレーションをしてみましょう。インフレ2%でやってみます。
契約をするとき、1年後の支払い、100円(契約時名目金額)にしました。
1年後。
肝心の、支払うためのお金はどうなったのでしょうか。
給料を払っている会社は、インフレだから、といって喜んで給料を102円に上げてくれるのでしょうか。
インフレであることは否定できないので、会社は給料を上げるでしょう。でも2%は上げてくれないと思った方がよいと思います。法律で強要された分だけ、しぶしぶ、ということになると思います。
結局1.75円あげてくれ、101.75円になりました。わーい1.75円得したぞ?
返済する金額が固定されていれば確かに1.75円得します。
でも、貸す方でもそんな損をする貸しかたなんて絶対しないのです。
従って「インフレを含んだ金利をぶち込んだ金額」に上げます。もちろんこのむね契約に明記(注記とかいう形で、見えないような場所に見えないような小さな字で書いてあったりします、ははは)して、後で裁判になっても勝てるようにします。
すなわち「価値修正条項」です。借りる方から見れば悪魔、貸す方から見れば天使の条項です。
今回の貸主は善意の人だったので、①通常の金利は0.25%にしてくれ、これに来年政府が発表するインフレ金利②を足した金額を払ってね、という契約にしてくれました。契約書の名目金額は100円で、価値修正条項として「100円というのは参考価格であり、実際の支払金額はこれに①+政府インフレ指標該当金額②を足したものにする」が入っているのです。
そして、契約期限つまり支払いの時がきました。その時点では
学者などが計測したインフレ:2%(これが本当の数字と思ってください)
政府が発表したインフレ:1.75%(インフレ国家、と言われたくないので、低めに設定します)。
従って、支払う負債の金額は
元本:100円+0.25円(①に該当)+1.75円(②法定インフレ)=102円
一方、給料のほうは、上に出てきた通り
給料:100円+1.75円=101.75円
すでに0.25円の損となっています。
貸す方でも政府が大本営発表でインフレを低く偽ることなんて最初から分かっており。今回は善意の貸主だったので大本営発表の分だけを織り込んで①を0.25%に抑えてくれていたのです(ここまで正確に当てるのはむすかしいです、ははは)。
この貸主さんは総額で実質のインフレである2%以外は請求せず、本来の意味での①は0円にまけていてくれたことになります。でもそんな貸主さんは本当はおらず、実際の①は0.5%なり1%なり「大本営発表で引かれる部分」+「インフレ以外の本来の金利」を要求してきます。
このケースは2%なんてかわいいインフレですが、毎年30%なんて本格的なインフレになったら上記①の金額も便乗して一桁多くなり。損害も壊滅的になります。
筆者がちょうど大学を卒業したころのブラジルは、ハイパーインフレが最悪の時代で、このからくりに巻き込まれローン返済不能に陥り、せっかく自分のものになりかかっていたお家をけりだされてしまう(1.8)人たちが続出しました。ぼくもそうなりかかり、他に持っていた蓄えを全部つぎ込んでなんとか繰り上げ返済しました。
大本営発表
結論ですが、単なる理屈としてみればインフレ時は債務返済に有利なように見えます。しかし、借主、貸主のニーズを反映した実際の契約ではそのようには素直にいかず。この記事の最初に書いた(A)(B)が上記具体例でどうなったかというと
(A)収入が増えるかどうか:インフレのため102円でやっと価値が維持されるのに、昇給してもらえたのは101.75円(法定インフレ・大本営発表の金額)。つまり、実質的には減給です。
(B)本当に負債の金額が維持されるのか:価値修正条項によって、102円になりました。これは善意(SpiritualS.1.10)の貸主が実質インフレ(1.11)以上はいらないよ、という計算にしてくれたためであり、本来は105円、110円など珍しくないと理解。つまり、負債の金額はインフレ以上に維持・上昇がありえます。
これはハイパーインフレ時代から、この終息期、そして人口ボーナスに入る端境期のブラジルの話(1.8)であり、今日の日本に該当するとは言いません。ただ、インフレになったとき、借金をする前にもう一度契約書を見直してみてください。見えないような場所に見えないような小さな文字であなたを破滅させるようなことが書いてないか発見できるように。
ではでは。。。。
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