みなさんは、車を運転していて、あれれまっすぐ走ってくれないなとか、カーブで外側に膨らみそうになっちゃった、とかあったと思います。
飛行機も同じで、ふらふらしないでまっすぐに飛ぶというのは、実はなかなか難しかったりします。
飛行機がまっすぐ飛ぶには「静的安定性」と「動的安定性」が関わり。いずれも重要です。
飛行機の場合、横の安定性と縦の安定性があるのですが、ここでは縦の安定性で説明します。
一見は百聞にしかずで。。。。
「Aerodinâmica e Teoria de Voo」Jorge M.Homa著 より
この図は、前下方からちょっとした突風をうけたときの飛行機の挙動について示しています。
①静的に安定のある場合は、機首を上下に振りながらも直進をしようとします。
②静的にニュートラルの場合は、機首が上がったらそのままの姿勢で上昇しようとします。
③静的に不安定の場合は、さらに機首上げを増そうとして、ついには失速に至ります。
というわけで、「よい飛行機」の一つの条件は、静的に安定していることです。
でも、それは十分条件ではなく。今度は動的安定性が関わってきます。
静的に安定した飛行機で
④動的に安定していれば、上下のふり幅を次第に減少させて直進に戻ります。
⑤動的にニュートラルだと、いつまでも同じふり幅で機首を上げ下げしながら飛んでいくことになります。
⑥動的に不安定だと、ふり幅が無限に大きくなっていき、やっぱり失速に至ります。
というわけで、「ほんとに良い飛行機」は動的・静的に十分な安定性を持っている必要があります。
優秀な安定性をもった傑作機の一つに「シュトルヒ」があります。
https://www.ms-plus.com/smp/43060
あれ、第二次大戦の飛行機じゃん?猫機長は操縦してもいないのに、なんでわかるの?
三面図を見れば、一目瞭然なのです。
ななふしというかトンボというか、高翼で細長い機体の端っこに、広く離れた間隔で設置された主翼と尾翼。つまり、尾翼による安定が得やすいスタイルになっている。
その逆にピッツがあり。
Pin auf aircraft (pinterest.com)
すん詰まりの胴体に、主翼と尾翼がたいした間隔もなく設置されています。
見るからに安定性が悪そうですが、じっさいめちゃくちゃ悪いそうです。
なぜそんな安定性のない飛行機を作るのか?
ピッツは、曲技機と言って、宙返りだのきりもみだの、狂った挙動をするための飛行機であり。安定性のある飛行機では、そんなまねはできないというか、できてもとろくて使いものにならなくなるからでした。ははは
その代わり、よほど熟練したパイロットでないと直進はおろか離着陸まで困難になってしまい。
似て非なる、というケースに、ソ連のI16があります。
主翼と尾翼がくっついちゃってるじゃん。。。。
この場合は、別に曲技(格闘)を行うために安定性をわざと犠牲にした、というのではなく。たいして馬力のないエンジンで、とにかくスピードを出したかったために、エンジンに対する機体の比重を無理やり小さくしたらこうなった。
しかしそのたくらみは成功し。解放風防の旧式機のくせに、低空ではドイツのメッサーシュミット戦闘機と互角に格闘したそうです。あれ格闘だっけ?
その逆にエアロコマンダー680があり。
https://www.jetphotos.com/aircraft/Aero%20Commander%20680
https://www.aircraft-reports.com/aero-commander-680-t-v-w-aircraft-maintenance-manual-1963/
ちょっと機首が長いけれど、高翼でうんと重心を低くして安定を確保しているらしい。
こちらは、もともとは爆撃機だそうで、とにかくどこまでもまっすぐ飛んでいくという、安定性が「売り」の飛行機。
その安定性によって、航空測量、航空写真の撮影用として大いに重宝されたそうです。
上記で分かるように、だいたい戦闘機は、わざと安定性を悪くして、その分機敏にしたようなのが多く。
でも、格闘性能とは関係ないところで、安定性がなくなっちゃった、という残念なのも存在しています。
例えばP51
Pixabay無料画像
P51は、スピードだの格闘性能だの自体は、実は最先端でもなく。でも、大きな爆撃機を援護して遠いドイツまで飛んでいく航続距離があったために、連合国勝利の決定打となり。世界の最高傑作とみなされるようになりました。
ところが、そもそも小さな単発機で、大型爆撃機、つまりは長距離輸送機にくっついていくというのは無理な相談であり。
その無理を通したため、へんなところに増加タンクを設置する羽目になってしまいました。
基本、燃料タンクは、空力重心と一致させて、ガソリンが下向きにかける重力と、翼による上向きの揚力が重心付近でうまく相殺するように設置します。
さらに、欧米ではなるべく胴体内に収めて翼内や操縦席を避け(囲むようになっちゃうけど)という努力がうかがえるのですが、P51の場合、日本機か?みたいに、ゴージャスに操縦席から翼にかけて大きなタンクが設置されており。
それでも足りなかったらしく、後部胴体にも大きなタンクが増設されてしまったのでした。
http://www.wwiiaircraftperformance.org/mustang/P-51D-manual-5april44.pdf
この結果、増設タンクが満タンのうちは、後部に重心の偏りができて、空戦以前にフツーの飛行にも細心の注意が必要になってしまったらしい。
F4ジェット戦闘機も同様で、長大な背中に分割して設置されたタンクが、燃料消費に従って急激な重心の変化をもたらし。飛行特性が大きく変わってしまったらしい。この特性を制御できないとF4乗りとしては失格みたいな、なかなか気難しい飛行機だったそうです。
f-4cd_overview.jpg (650×241) (watergeek.eu)
脱線してしまいましたが、ふつう飛行機は、操縦かんを放していても自然にまっすぐ飛んでいけるくらいの静的・動的安定性をもつよう作られており。
しかし、ここでもう一つ大きな課題が。
飛行機は、空気の中を飛んでおり、飛行機を取り囲む空気自体が、上昇気流だの下降気流だのと言って常時動いているので、その気流・気団の中で水平飛行していると思っていても、例えばサーマルの中にいれば、知らないうちに対地高度は上がっていってしまいます。
そうゆうときは、操縦かんを押し気味にして、機首下げ、下降の姿勢だけど地上からの高度は一定、まっすぐだよ!というふうにします。
でも、そのばあいずっと操縦かんを押していなければならず。
ここでトリムの出番です。
あー本題までが長かった。
機首を上向き、下向きにする動きつまりピッチの操作は、水平尾翼で行います。
そこで、ちょっと機首が下向きになる位置に水平尾翼をセットしてうごかないようにすれば、操縦かんから手を放しても飛んでいけます。
このために、タブというものが発明され。
左右の水平尾翼は連動しているので、タブは右翼だけです。
このタブが上向きになれば、昇降舵には下向きの揚力が発生して、手で操縦かんを押さなくても、昇降舵は下向きに作動します。
昇降舵が上向きになれば、水平尾翼には上向きの揚力が発生し、飛行機は尻を上げ、機首をさげます。
この結果、操縦かんから手を放していても自然に飛行機は下降していき。この降下率をサーマルの上昇率に合わせれば、飛行機はまっすぐ飛んでいくのでした。
トリムタブの原理。
Aircraft Trim Tabs – Know To This Aeronautical Airplane Engineering Knowledge
トリムは、別に水平飛行だけではなく、上昇や下降でも便利です。
例えば、下の写真では、機首上げ13度くらいかな?に保つようにセットして、ぐんぐん上昇しています。
この写真みたいに、トリムがぴたりとあって、手を放していても、目指すピッチで操縦かんがぴたりと静止、なんてできたときは気分がいいですねー
ぼくの乗っているLSA(軽飛行機)は、水平尾翼のトリムは電動式です。セスナなどでは、古典的な、お皿みたいなのをくるくる、というのも健在です。
トリムのスイッチと表示灯
セスナのトリムホイールhttps://ameblo.jp/taxi283/entry-12167705300.html
今日の記事は、垂直面での操作に特化したお話ですが、水平面でも、方向舵にタブがあるのが普通です。ぼくの軽飛行機の場合は、こちらは紙飛行機と同じ固定式で、飛行前に地上で調整します。安定というか、Pファクターやトルクを打ち消す作用が主ですが、これはまた別の記事にしています。
そして、さらには横転という、機軸に従った動きがあるのですが、これに関連する補助翼については、軽飛行機ではタブのないのも多いし、また別の機会の投稿とさせていただきます。
ではでは
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