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空を飛ぶものは落っこちる。これはニュートンの法則です。
とんまな小鳥が木の枝への着地に失敗しごっつんこ、あららなんて別の枝につかまってお茶を濁す、なんてこともありますが(一度だけですが確かに見ました)、鳥に比べたらはるかにぶきっちょな飛行機では、墜落はいつも警戒しなければならないリスクとなっています。
これが軍用機になると、気流だ雲だ、という自然現象のみならず、人間様自体がミサイルだなんだと撃ち込んでくるので、墜落なのか撃墜なのか、ともかく落っこちることを前提にした飛行機を作ることが必要になってしまい。
第2次大戦までだったら、飛行士にパラシュートを持たせて、キャノピーを開けて脱出、だったのですが、高度8千メートル、相対速度800キロですさまじいGのかかる無理な飛行をやってへとへとのパイロットでは、のんきに窓を開けて、なんてのもうまくゆかず。脱出時に自分の飛行機の尾翼に衝突して死んじまうパイロットも出てしまい。
こんな感じ。真っ二つ、というよりバラバラ・ミンチ状態になったらしい。
「零戦の操縦」ISBN978-4-7572-1734-8より。
軍の首脳部にとっては、なかなか由々しき問題となりました。
きょうび、F15の購入には100億円がかかると言われています。そして、そのパイロットの育成には、7億円がかかるそうです。
パイロットの場合始末が悪いのは、レーダーだのエンジンだのと違い、部品を生産ラインに乗せてはいOk、ではなく、航空学生としてまず軍人教育でいじめ、2年後に卒業したらそこで初めて練習機に乗せ、航法、管制、気象、航空法規、航空力学、飛行機整備学、おっとそれから操縦そのもの、と果てしない技能を詰め込み、やっとパイロットとして一人前になったら、まってました!ミサイルの打ち方だ、チャフのまき方だ、と今度は戦争技術を教えなければならず。つまり一人死んじまうと、7億というお金のほかに、次の補充が来るまで、へたすれば何年もまたなきゃ。。。。という事態になってしまいます。
太平洋戦争時、日本はあまりこの点を考えていなかった、というか、多少は考えていたが、でも実はやっぱり全然考えておらず、やれ特攻だなんだとパイロットの命を湯水のように消費してしまい。すでにマリアナ沖海戦の時点で熟練パイロットはほとんど死んじまっており、ひょろひょろふらふらとなんとか飛行機を操るのが精いっぱいの日本の未熟なパイロットは、それまで何度撃墜されても手厚いレスキュー措置で生き延び、一戦また一戦と強くなっていった米軍パイロットにヒヨコのようにひねられ、「マリアナの七面鳥撃ち」になってしまいました。
というわけで、まともな空軍なら「機体は破壊されても必死になって生き残ろうとする」パイロットという便利な部品を見殺しにするわけはなく。海上の空戦なら潜水艦やら飛行艇やらをじゃんじゃん派遣し、陸上の空戦ならレジスタンスを大々的に招集し、落っこちてくるパイロットを回収し、次の空戦の部品として再利用するシステムをしっかり構築しているのでした。
そして、このシステムの中でも最重要と言えるのが「脱出装置」なのでした。
脱出装置には、大きく分けて射出座席と、操縦席全体を射出するモジュール式脱出装置があります。モジュール式のほうがパイロットには優しいのですが、およそ飛行性能、空戦性能とはかけ離れた重い装備・装置になってしまい。機体強度にもかかわってくるし、主体は射出座席になっているようです。
B1爆撃機の射出モジュール。http://4.bp.blogspot.com/-KAeRRSMVPJg/VHSKyzBqY-I/AAAAAAAAGb8/DqkvGZW3mRA/s1600/Lancer.jpg
射出座席の芽生えは、すでに第2次大戦時のドイツ空軍に見ることができ。
射出座席を装備したドルニエ戦闘機。https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/3/3e/Dornier_Pfeil2.jpg
朝鮮動乱のころになると、フツーの装備になったらしい。
でも、初期の射出座席は、ある程度の高度を飛んでいないと、射出はできてもその後のパラシュート開傘の高度がたらず、結局地面に激突して死亡、という事があったらしい。
T-33A入間川墜落事故の例では、エンジントラブルで、落ちるぞ、という時、パイロット2名が必死で民間の家屋を避けるべく操縦しているうちに、パラシュートで脱出しても助からない高度にまで落ちてしまい。それでも、脱出装置はちゃんと作動したぞ!という事実を残し、少しでも整備員の心痛を和らげるために、2名のパイロットはあえて射出し、墜落死という痛ましい事例が発生。
また、別の例では、やはりエンジントラブルで、民家を避けているうちにもはや不時着しかない、というところまで高度を失ってしまい。落着の衝撃でパイロットは死んじまいましたが、これも脱出装置の安全装置は外し、「脱出できなかったのではなくて、しなかったのだ」というメッセージとして整備員をいたわっていたというのもあり。
偉大な練習機T33A。でも、この当時の射出座席はいろいろ限界があった。
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そこで開発されたのが「ゼロ・ゼロ射出機能」。高度ゼロ、速度ゼロでもとにかく射出しちゃえば、座席についているロケットエンジンでパラシュートが開ける高さまで打ち上げ、安全に開傘できる、というものです。
下の写真は、とあるエアショーで、反転ループを行おうとしたところ、規定より200メートル低い高さで開始してしまったため、リカバリーできず、地上に激突だ!の寸前に射出という恐るべき瞬間。まさにゼロ高度での脱出の実例になりました。
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この例では、パイロットは軽傷で済みましたが、実際にはなかなかそうもいかないことも多いらしい。
射出座席なんて、パイロットを縛り付けたミサイルをぶっ放すのに等しく。射出の瞬間には15Gから20Gの圧力がかかるそうで、「適切な姿勢を取っていないと脊椎を痛める(Wikipedia)」などとありますが、それは鋼の肉体を持つ戦闘機パイロットだからであって、ぼくだったら、適切な姿勢を取っていても脊椎が粉砕され、それ以前に頭蓋骨の中で脳みそがぐちゃっとつぶされて、パラシュートが開くころには死体になっていると思います。
というのも大げさかもしれませんが、じっさい、射出後の後遺症で飛行機に乗れなくなる人も多数いるそうで、「二回射出したら体にダメージがたまって退役」という事も言われているらしい。
射出の時に、ちょっとした姿勢のずれで、足がコクピットの何かにひっかかり、ちぎれちゃったとか、射出に前もってキャノピーが爆薬で吹き飛ばなければならないのに、故障で吹き飛ばず、哀れ射出でキャノピーを粉砕し、一緒に自分の頭も粉砕しちゃったとか、とにかく射出というのはうまくいっても九死に一生、というのがあるあらしい。
この記事を書いていて、民間パイロットでよかったと、胸をなでおろしています。
といって、民間機は、墜落しても脱出できないじゃん?というのも事実です。
そこで、最新の軽飛行機など、墜落だ!という時、機体自体をパラシュートで降下させるなんて機能を持っているのもあります。
この場合は、脊椎がどうだのというのはなく、なにげに安全に降りることができるらしい。
写真出展:PÁRA
ぼくも単発軽飛行機降りですが、安物の軽飛行機なので、こうした最新装備はついていなかったのでした。ははは
でも、軽飛行機の場合、だいたい墜落の原因はエンジン不調なので、エンジンがストップしても不時着できる原っぱの上を飛ぶようにしています。落っこちてペラをひん曲げたり、ギアを折ったりしても、乗員は無傷で助かる(事例が多い)からです。
というわけで、本当にパラシュートが必要なのは大型の旅客機なんですけどねー、でも金庫のように重いジェット旅客機を支えるパラシュートが作れないのか、作れても採算に合わないのだと思います。
ヘリコプターの場合は、やっぱりローターに絡まっちゃうのだと思います。オートローテーション(ローターが墜落の風圧で風車みたいに回転して落下を減殺し、ソフトランディングを可能にする)に望みをかけたほうが良い、という事なのでしょう。
小さな飛行機に乗っています
ではでは。。。
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