短編集:クリスマスに寄せて

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優しさいっぱいのクリスマス特集です

 

 

かぶと虫に356レプリカ。この2台に代わる代わる乗っています。

こうゆうふしぎな名車たちを生み出したドイツについて、短編を3つほど掲載します。ひとつめはドイツ文学の名作「朗読者」の感想文(ネタバレなし)です。「愛を読む人」として映画化されているので、そちらの方をご存知の方も多いかもしれません。ふたつめは飛行機乗り目線から見た、飛行機史上のとある実話。3つ目は、その実話がらみのちょっとした短文です。


 

 

1.ナチスの「犯罪」についてのドイツの本音。

とある素敵女子から、なにげに借りた小説「朗読者」。実はドイツの深層が隠された恐るべき内容でした。戦後10年程しか経っていない当時のドイツに、まず登場するのが、なよやかな病弱少年。歩道でゲーゲー吐いて倒れかかったときに助けてくれたたくましいおばさんと、どきどき!な関係になってしまいますが、その後おばさんが戦争中は強制収容所の看守だったことが発覚し、裁判行きに。とこれくらいならネタバレにならないでしょう。


 

 

恐るべきは、①少年:ワイマール時代の虐げられたドイツと戦後の悩める優しいドイツ、②おばさん:第三帝国(ナチスドイツ)、を象徴していて、おばさんの裁判シーンは、裏付けのない判決を言い渡されるドイツ(おばさん)、勝者の論理を押し付ける連合国(裁判官や、便乗しておばさんだけに罪をかぶせる元同僚)を象徴するが如しである。

「裏付けのない理由」がいかにもドイツ的な明快・正確さで提示されていますが、ネタバレになるので書きません。「朗読者」という題名がまさにそのものずばりとだけいっておきましょう。そして裁判をひっくり返す「理由」を知っている優しい少年は、おばさんへの「朗読」を続けるのでした。公式に戦争犯罪を認めたドイツの小説であり、ラストは避けがたい内容ではあると理解しますが、「ヒトラー最後の12日間(こっちは映画です)」とともにドイツの正義とはなにか?を議論(というか主張)し後世に残す重要な文献と理解しました。


映画版「愛を読む人」https://nospensees.fr/the-reader-traumatismes-secrets-et-passion/

 

 

2.キュートな飛行気乗りのお話をひとつ。

第二次世界大戦、ヨーロッパ。

イギリスを発進し、海を越えてヨーロッパ内のドイツ陣地を空襲したB17爆撃機の編隊。しかし激烈なドイツの反撃にあい。

当時のドイツ高射砲はかなり優秀だったらしい。

さらには、ほとんど体当たり状態まで突っ込んでくるドイツ戦闘機の攻撃も激しく。これは勇敢とかいう前に、時速500キロ近くで動きまわる空中戦では、ほとんどぶつかるまで近寄らないと機関銃の弾も当てられん、ということで、日本の零戦乗りも「敵機から50メートルくらいの距離まで近づいて、照準器から敵機が大きくはみ出るくらいになってから射撃した」そうです。


実際に衝突したケース

 

 

というわけで、B17側も被害続出し。一時は出撃ごとに三分の一に及ぶ機数が撃墜されたこともあったらしい。

そんななかで、チャーリー・ブラウンさんの操縦するB17一機が、なんとか爆撃を終えて帰路には着いたものの、エンジンがやられてスピードが出ないぞ!

必死に帰路を急ぐ編隊に置いて行かれてしまったのでした。

当時は100機にも及ぶ爆撃機が密集体形をとって、近づくドイツ戦闘機に一斉に射撃をくらわすという防御の仕方をしていたので、一機だけはぐれちゃった爆撃機なんて、それだけで敵戦闘機から見れば「おいしいエサ」です。

こまった!どうしよう。。。

そんな状態で、遠くからキラリ!と輝く機影があったと思うと、ぐんぐん瀕死のB17に近づきはじめ。

遂に敵戦闘機に発見されてしまった!

あやうしB17!

一方戦闘機の方では、フランツ・スティグラーというドイツ丸だしの名前を持つパイロットが操縦していました。

「いひひひひ!これで勲章確定だぞ!」と大喜びでB17に近づき。

スティグラーさんは、これまでの戦歴により、この一機を落とせば「騎士鉄十字章」を獲得できるところまできていたのです。

ぐんぐんとB17に近づいたとき。

うあああ?なんじゃいこりゃあ?

B17は、それまでの戦闘で、左の水平尾翼は吹き飛び、垂直尾翼も半分無くなっちゃった!身を守るための機銃はもはや撃ち尽くし、機体は穴だらけ。

「空飛ぶぼろ雑巾」の状態で、幸い4発エンジンのうちまだ3発は動いていたので、なんとか水平飛行は続けられていた。


 

 

ひえええ!だれだこんな残酷なことをする奴は!と、敵だなんだという以前に、かわいそうになってしまったのでした。

飛行機の中ではもう誰も生きていないんじゃね?

幽霊船状態のB17。スティグラーさんは、B17の真横まで戦闘機を操り、並行して飛行しました。

操縦士は生きているぞ!必死になって飛行機を水平に保っていたのでした。

操縦席からチャーリー・ブラウンさんが、うつろな目でこちらを眺めています。

チャーリー・ブラウンさんもスティグラーさんを視認。よく見ると、Bf109戦闘機の、出来損ないじゃないけどそれに違い、ほとんど身動きもできない小さな操縦席の中で、一生懸命チャーリー・ブラウンさんへサインを作って送って来ています。

以下、スティグラーさん(ス)とチャーリーさん(チ)の会話

ス「ぼけかおまえは。イギリスとは全然違う方向に飛んでいるぞ」

チ「ざけんな!トイレもない飛行機に乗ってやがるくせに、偉そうだぞごるあ!」

ス「おまえらとちがって飛行中にう◎ちなどせんわ!いいかよくきけ、イギリスまで送って行ってやる」

チ「えっほんと?あとで「わかば」のたい焼きおごってあげるね!」

と、そこからは仲良く、イギリス近くの、連合軍制空権の始まる直前の空域まで飛んで行き。スティグラーさんはドイツへ向けて反転していったのでした。

400キロの距離を飛んだB17は無事イギリスに帰還。

基地で大騒ぎするなかまたち。「わああぼろ雑巾が飛んできた!」

チャーリーさんは、隠さずに「変なドイツ人が道案内をしてくれました」と報告すると、上官は

「たしかにドイツ人は道案内が大好きという習性があるようだが。。。ん?あれ?敵と仲良く編隊飛行なんて、何を言っとんねん!しばき倒したるでごるああああ!」

文化的なイギリス空軍なので、シバかれはしませんでしたが、

『敵への肯定的な感傷の一切を今後構築しないよう』命じられてしまいました。

一方スティグラーさんの方は、ちゃっかり「一機落としました。海の上なので残骸は見つからないよ」と報告し、どうやら勲章もゲットしたらしい。


東京四谷の「わかば」。天然物のたいやきです

 

 

それから40年後。

いろいろあって両者は再会することができ。親友になったのでした。

めでたしめでたし。

ちなみに、スティグラーさんがチャーリーさんのB17を撃墜しなかった理由は

「まるでパラシュート降下中で、全く反撃できない人を撃ち殺すようなものだ。そんなことは断じてできない

と述べています。

 

3.ブラジリア国際空港で


日独米の若者達をモルモットに開発したB17やB29を祖先に持つだけあって、なかなか精悍な面構えのボーイング737。ハチの巣になっても飛び続ける機体、乱気流の少ない超高空をらくちんに飛行できる与圧装置、IFR(計器飛行)や航空管制技術の開発によって「殺しても死なない」安全性が確立され、ぼくもその安全さを享受している旅客の一人では、あります(撮影@ブラジリア国際空港/SBBS)。

ではでは。。。

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