その①についてはこちらをご参照→前が見えない
今回は、旅客機の風防について投稿します。
黎明期の旅客機は、風防なんてなくて吹きさらしで飛んでいましたが、そのうち飛行機のスピードが速くなり、高度も上がったりしていくうえで、すっぽり操縦者を覆う機体と風防に進化しました。
黎明期の旅客機 https://www.ne.jp/asahi/airplane/museum/cl-pln8/DH66.html
といっても、最初はユンカース旅客機みたいに、機体には操縦者も覆う天井があるのに、なぜか操縦席だけ大きく天井をぶち抜いて、風防には申し訳程度の透明な板をくっつけたみたいな謎の飛行機も生まれ。
TYO magazine » 世紀をこえ、歴史的航空機が復活!──「ユンカース F13」 (tyo-m.jp)
ここまでやるんだったら全部覆えばいいじゃん、ということでハンニバルみたいな感じのが生まれました。
とくちゃんのプラモの部屋・プログ – 楽天ブログ (rakuten.co.jp)https://plaza.rakuten.co.jp/tokuchanplamo/diary/200611110000/
この当時はガラス・プレキシガラスの曲面加工とかがまだまだ未発達で、風防も窓枠ありすぎみたいなのが多かった。
エアスピードAs6Aエンヴォイ https://i.ytimg.com/vi/0eeUetkIz1o/maxresdefault.jpg
ちょっと脱線ですが、その後加工が比較的容易になった第二次大戦でも、一部の飛行機は曲面を極力避けて平面のガラスを窓枠で結合していた。
JU88 https://www.ne.jp/asahi/airplane/museum/cl-pln4/290Ju87.html
零戦 https://onemore01.blog.ss-blog.jp/2015-11-15-1
東海 パブリックドメイン
曲面ガラスだと光が乱反射して全然透明にならず。海面下に身をひそめる潜水艦を目視で発見するために作られた東海など、典型的な「曲面ガラス大嫌い」の飛行機になってしまったらしい。
旅客機の場合は、上だの後ろだの下だのを見る必要はなく、ちゃんと離着陸できて前が見えればいいやということで、機首のガラス部分も次第に必要最小限のものに効率化されていった。ドラゴンラピードからエレクトラへの変遷で見て取ることができます。
https://www.mailexperiences.co.uk/de-havilland-dragon-rapide-flight-over-london
ロッキード エレクトラ https://www.hobbyland.jp/shopdetail/000000103144/
このへんで、だいたい現在に通じる旅客機の風防のスタンダードが生まれたというか定着し始めました。
スタンダードと言えばDC3。
https://airlegend.fr/aircraft/dc-3/
まず、流線形の丸い機首。そして、操縦者にすっぽりかぶさる感じで風防と天蓋が設置された。
http://hikokikumo.net/Z-14-Senmonka.htm
似たようで個性のある旅客機たちの機首と風防はこんな感じ
ボーイング247 https://flightsim.to/file/34658/boeing-247-fast-western-airlines-fwa18
ビーチクラフト モデル18 https://i.ytimg.com/vi/NjJ05D0YR-c/maxresdefault.jpg
https://aviadejavu.ru/Images6/MA/MA95-2/o2-4.jpg
ロッキード スーパーエレクトラ
三菱MC20旅客機 https://www.ne.jp/asahi/airplane/museum/cl-pln8/MC-20.html
しかし、雨だろうが雪だろうが既定の路線を飛んでいかなければならない旅客機にとって、「風防に水滴や雪などが吹き付けられて、前が見えなくなってしまう」というやばい問題が生じ。
しょうがないので、せっかくコクピットに守られたパイロットが、風防のサイドウインドーを開けて顔を出し。びしょ濡れになりながら操縦というケースも多々発生してしまいました。
どうしよう。。。。
ワイパーが実用化されたのは第二次大戦くらいかららしい。
連合国勝利の立役者となったDC3が、ワイパーを設置して、雨だろうが雪だろうが元気いっぱい飛び回った。
ちなみに、日本にもDC3のライセンス版である「零式輸送機」がありましたが、こちらにはワイパーはなくて、戦後になってから日本の高空会社が購入した舶来のDC3に「あああこんな便利なものがあったのか!」と大喜びしたといううわさもあり。
まだワイパーのなかった戦前の30年代とかはどうしたのかというと
「風防に逆傾斜をつけた」
ボーイング247が典型的です。
まずは通常型から
https://flightsim.to/file/34658/boeing-247-fast-western-airlines-fwa18
逆傾斜をつけたのはこちら
この結果雨や雪が風防に貼りつかなくなって大喜びだったそうです。でも、機体強度だの空気抵抗だのではやはり無理があるらしく、ワイパーにとってかわられて今日にいたっています。
777のワイパー 縦ワイパーと横ワイパー: 風の探検隊 (air-nifty.com)
飛行機にとってなにより命なのがスピード。
でも、スピードだけでロクに前がみえない、操縦できない、というのでは困るので、パイロットの視界をよくする必要もあり。
結果、風防ガラスの位置や角度が色々と工夫されて、いろいろな旅客機の特徴的なツラがまえというか機首ができてきました。
も一度DC3ですが、やはり世界の名機だけあって、必要なものが必要な大きさと形で、と理解します。
http://hikokikumo.net/Z-14-Senmonka.htm
DC3の風防は、すとんと切り立った小さめのものが、大きくラウンドした天井にくっついており。重く、あつかいにくいガラスの使用面積を最小にしながら、空気抵抗の増大を抑えています。最新の旅客機では、機首と風防の段差がなくのっぺりとしています。空気抵抗の面ではこの方がいいのでしょうが、斜めにすればするほどガラスの面積も増えるわけで。さらには機体と一緒に曲面に整形しないとかえって空気抵抗増大になってしまいますから、整形しても軽く破損せず、かつ偏光して視界がゆがむということのない、最新技術があって初めて可能になったものと思われます。
https://air.theworldheritage.com/htm/htm_flame/flame_ERJ175.html
DC3から今日までの過渡期の例でYS11があり。当初のっぺり型を目指したが、やはり段差をつける方がよいということになり。確か3回ほど設計変更して最終的な形が決定された。
すずめや鷹など、鳥の頭はだいたい段差型をしており、個人的にはこれが一番効率的かなーと思うのですが、段差のない「機首一体」のも存在しています。
段差のないのもいる。https://medium.com/@VIVIMETALIUN/especial-tipos-de-tucano-6243f5f99434
グライダーも一体型が多い。
こういう風防で、乱反射とかないのだろうか?(PIXABAY無料画像)
とにかくスピードを出したい偵察機で、段差型から一体型に移行したのもあり。でも、「視界の歪みや夜間飛行時の内面乱反射の発生(Wikipedia)」で評判は良くなかったらしい。前期型の最高速度604キロから、段なし風防では630キロに向上したというのですが、エンジン出力も1080HP X2から1500HPX2と劇的に向上していますからねー風防の変更がどこまで役にたったかはなぞと思います
新司偵の初期型(上)http://www.hasegawa-model.co.jp/product/02243/
と後期型(下)http://www.nags-gallery.com/gallery/ki46.htm
大型機になると、空気抵抗以外の理由で、段差なしの一体型になることもあり。
例えばB29の場合、もちろん空気抵抗もあったが、通常型の機首上部に、というのだと、離着陸時に地面がみえなくなってしまい。B17で相当苦労したのか、B29では降着装置も前輪式にして、その点は離着陸がそうとうやりやすくなったとは思いますが、巨人機できびきびした取り回しの難しいB29だと、機首全体を温室みたいなガラス張りにして、地面を見やすくしたというのはあると理解します。
B29 パブリックドメイン
B29の着陸 https://www.youtube.com/shorts/zB4_tSsUJWA
B17やハドソンとか、段差式の機体でも機首はガラス張りにして照準器を置いていた。B29では、操縦席も一緒にしちゃえ!ということだったらしい。
あと、B29の場合は、与圧設備の都合があり。段差式にして照準手と操縦手を離してしまうと、効率が悪くなり設備も複雑になってしまったものと思われます。
他には機体の上部銃座の射角を確保したいというのも聞きます。
「空軍大戦略」でみんなおなじみハインケル爆撃機も、初期型は段差式だった。
初期型 https://www.gettyimages.com.br/fotos/heinkel-he111
後期型 https://www.gettyimages.com.br/fotos/heinkel-he111
与圧はないけれど、大体B29と同じ理由で「全視界操縦席」になったものと思われます。
戦後の旅客機全盛時代に戻ると、B29の民生型であるB377が機首と一体の風防になり。照準手の必要はないので、操縦席も前に移動し、ガラスの枚数も減りました。
B377 https://united-states-lines.org/boeing-stratocruiser/
ところが、ここでパラダイムシフトが。
これまでの飛行機は、とにかくパイロットの目を頼りに飛んでいましたが、戦後になってレーダーが普及し始め。
パイロットの肉眼ではとても見えないなん百キロ先の積乱雲とかを探知できるようになりました。
ただ、レーダーは飛行機の先端に付ける必要があり。というか、そうしないとぜんぜん非効率になってしまうのです。
そこで、軍用、民間問わず、飛行機の先端には「レドーム」がつくことになり。レーダーが格納されているコーン(電波透過性に優れた特殊な塗料で塗られているため、ふつー黒いです)の部分を操縦席の前にして干渉を防ぐ必要が生じた。
こうして、段差つきのコクピットが復活しました。
代表的なのがコンステレーション(ただし初期型はレーダーなかったらしい)
https://www.loughborough-raes.org.uk/ewExternalFiles/120313%20Beneath%20the%20Skin.pdf
その後のDC8とか、ボーイング707,727,737とか、いずれもDC3ちっくな段差つきになっています。特殊な塗料もいろいろな色ができるようになり、現在の旅客機は機首も機体と同じ色ですが、その先端はレドームであり、レーダーが収まっているのです。さらに時代は進み、現在はまた段差のない形に回帰しつつあるようですね。でも、個人的にはやっぱりDC3みたいなメリハリのある段差式の機首がかっこいいと思っています。
ではでは
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