きょうびどこへ行くにも飛行機。素敵女子たちの大好きな台湾、グアム、沖縄、みんな快適なジェット旅客機でひとっ飛びです。
でも、素敵女子たちのおじいさん、おばあさんの世代は、そうひとっ飛びでもなく。
黎明期の旅客機は、えっちらおっちら、入道雲を避けながらも、毎回乱気流にもてあそばれて、がんががん!きゃー!という飛行を余儀なくされていた。
当時の企業家たちは、もっと楽ちんに揺れないで飛ぶ方法はないものか、そうすれば電車なんかよりずっと早い飛行機は、きっと料金より時間を大切にするお金持ちがよろこんでお金を落とすドル箱になるのに、とくやしがっていました。
そんな時に世界大戦が勃発。
当初の、ソードフィッシュみたいな乗員吹きさらしの複葉布張り機から、ランカスターみたいな単葉ですっぽり乗員に覆いかぶさる風防がついた金属製の飛行機に変わってきた。
ソードフィッシュ(上)とランカスター(下)
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企業家たちは、ふむふむ、いいじゃん、と喜び。
政府や軍が大金をつぎ込んでエンジンの開発に血道をあげてくれた。例えばメッサーシュミットBF109は、当初は570馬力だったのに、後期型では1400馬力と、3倍近くになっており。
Bf109A。エンジンはなんと英国ロールス・ロイス
製570馬力。
https://acesflyinghigh.wordpress.com/2012/04/08/willy-messerschmitts-bf-109/
飛行機なんて、1にエンジン、2にエンジン、3、4がなくて5がエンジンですからねーベルサイユ条約でいじめられて、食うや食わずのドイツでここまでエンジンにお金をかけたわけですから、イギリス、アメリカがどんなバケモノエンジンを開発したかはおして知るべし。
その結果、飛行機への武器弾薬の搭載量が飛躍的にのびた。
これもいいね!と企業家たちはまた喜び。
でも、地上でそろばんをはじいていた企業家たちが気づかなかった恐るべき事実が、戦争の推移で明らかになってきたのでした。
それは「高高度性能の充実」
ゼロ戦に手を焼いたアメリカですが、そのうちゼロ戦のエンジンなんて実はたいしたことなくて、P51だのがぐわーんとエンジンをふかして高度1万メートルまで駆け上がってしまえば、はるか下でくるくる回っているだけということに気づき。
高度優位によるエネルギー差を生かして、格闘戦もへったくれもなく、ゼロ戦や隼を粉砕しました。
でも、別に零戦や隼なんて粉砕しなくても戦争は勝てる。
いくら零戦に撃たれても落ちない不死身の爆撃機を雲霞のごとく日本の空に放ち、零戦を作っている工場を爆破してしまえばよいのです。
この際高空かどうかなんてあまり関係なかったりします。
独ソ戦で、低空を這うようにして地上の戦車などを撃破していたシュツルモビークなどが、勝つために本当に必要な飛行機とは何か、を物語っています。
空の戦車シュツルモビーク(PIXABAY無料画像)
これを援護するソ連の戦闘機も、迎撃のドイツ機もやっぱり低空。低空ではエンジンの出力差もあまり出ないので、ソ連戦闘機は天下のBf109やフォッケウルフと互角の奮闘をしたらしい。
大陸の戦争は広域にわたる陸地面積の取り合いで、まずは兵隊を雲霞のごとく繰り出して、地雷でもなんでも踏ませて戦車の通り道を確保し、次は戦車を雲霞のごとく繰り出してドイツの砲弾やバズーカの餌食にさせ、さらに次は兵隊を雲霞のごとく繰り出して弾の尽きたドイツ兵と相打ちにし、その次はまた戦車を。。。。と、敵も味方も殺しつくし、最後は「畑(ラーゲリ)からいくらでも取れるソ連兵が残った」とゆうふうに持って行き。
このやり方を「縦深攻撃」といいます。
ソ連が絶滅戦争の汚れ仕事を引き受けているうち、アメリカとイギリスは何をしたか。
独ソ戦線のはるか後方にあるドイツ工業地帯を壊滅させたのですが、そのやり方がちょっと。。。
「皆殺しのルメイ」すなわち米軍戦略航空隊のボス、カーチス・ルメイによる「戦略爆撃」で、日本とドイツの主要都市は、女性や子供も見境なしに爆殺され、灰燼に帰してしまいました。
いちおう、クリーンな戦争をやろうというポーズは見せた。
それが「高高度精密爆撃」
世界一の高性能エンジンで可能となった高高度性能を活用して、零戦や隼がはるか下方でくるくるしているところ(Bf109はがんばって高空まで上がってきた)を安全に、かつ軍事施設だけを爆撃しましょう、という、アイデアとしては完璧で、後年の湾岸戦争などで見事に花開き。ピンポイント攻撃の「クリーンな」戦争を可能としました(誤爆も多いけれど、独ソ戦のような絶滅戦争よりはずっとまし)。
その原型ちっくな秘密兵器が、第2次大戦ですでに生まれていたのです。
米英おそるべし。
その名は「ノルデン精密照準器」
ともかくものすごーく精緻な爆撃を行うことが可能で、理論上は1万メートルの高空から、ベルリンのパン屋さんの前の電柱におしっこをしている野良犬に爆弾を命中させる精度があったらしい。
B17の機首。爆撃手席中央のノルデン照準器
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こうして高空を覆うB17の大群が、軍事目標のみを見事に壊滅、とはなかなかいかないことが判明。
B17
「アメリカ航空軍は、軍需工場に対する戦略爆撃において、工場のみを目標とする精密爆撃をしようとしたが、十分な成果が得られず、絨毯爆撃に切り替えた(Wikipedia)」。
照準もへったくれもない大量殺りくで血も涙もなくドイツと日本を壊滅させたアメリカ。
じゃあ、なんでノルデン照準器なんて開発したの?
ノルデン照準器は、実は戦争に勝つための装備ではなく。「戦争に勝つために高空を飛ぶ」という言い訳を正当化するための道具でしかなかったのです。
本当の狙いは、高空で無数の大型輸送機を飛ばす実験をしたかっただけであり、爆弾を落とすなんてどうでもよかった。
そんなことは口が裂けても言えないので、ノルデン照準器でクリーンな戦争をしましょう、と言いつつ、実は長距離旅客機のプロトタイプ実験を繰り返していたのです。
なぜそこまで高空にこだわったのか。
以前の記事(「B29によって築かれたエアライン運航の基礎」、「日本がリードしていた戦前のエアライン」)に書いた通りなので、要点だけ書き出しますが。。。
◎高空の低い大気密度では、気流が安定しており、機体(おっと乗客もですよ)へのストレスを軽減できる。スピードが出せて燃料が節約できる。
旅客数や、もうけなど、大喜びでそろばんをはじいていたのでしょう。
あとはみなさんご存じですね。高空での厳寒や酸素不足を与圧設備で解消したB29で、Tシャツを着た搭乗員がサイパンから東京をなにげに往復し、ついでに爆弾も落とせることが証明できました。
B29(旅客機型B377)
https://web.facebook.com/groups/218033175139/?_rdc=1&_rdr
日本を実験台にして踏みにじり、アメリカは戦後の経済超大国へ躍進。
ああ無情。。。。
ちなみに、ノルデン照準器が、戦争の趨勢に大きく貢献したのは、実は「低高度雷撃」。
当時の傑作機に、グラマンTBF「アベンジャー」というのがあり。マニアの人ならピンとくると思いますが、グラマンF6F戦闘機が日本の戦闘機など大多数を撃墜して太平洋戦争の制空権を獲得したのと同じく、この制空権を生かし切って日本海軍の軍艦の多数を沈めたのがアベンジャー雷撃機でした。
大げさに言えば、この2機とB29 でアメリカは日本を屈服させたとも言えるのである。
F6F
TBF
B29(以上F6F、TBFともパブリックドメイン)
そのアベンジャーが装備していたのが「ノルデン高高度精密照準器」
戦争に決定的な影響を与えた軍用機の例にもれず、アベンジャーも低高度、海面すれすれを飛んで日本の軍艦に魚雷をぶち込みました。
どこでノルデン照準器の出番があるんじゃい?
自動操縦装置として重要だったのでした。
四方八方見渡す限り海、という状況では、まっすぐ飛ぶことさえ至難ですが、爆撃進路を一定に保つ機能を持ったノルデン照準器に「この進路に向けて飛びましょう」とインプットしちゃえば、あとはパイロットがぐーぐー寝ていようが、横風成分などを自動的に計算して、その進路に向かって飛んでくれる。
迷子にならずに生還率を高めるうえで、ノルデン照準器は必須アイテムだったのかもしれません。
*このへんの情報については、こちらもご覧ください(外部リンク)https://www.youtube.com/watch?v=M2w3CFPqnxs
いろいろあって、戦争とは違う目的や、戦争目的だけど、本来の用途とは違う場面で活躍したノルデン照準器。アメリカの国力を象徴する、恐ろしい「武器」だと思います。
ついでに、ようつべで面白いのがあったので、リンクしときます。
https://www.youtube.com/watch?v=bFdvRhxv5ng
ではでは。
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