短距離ランナーがマラソン走者になった話

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飛行機マニアなら「スピットファイア」という言葉はご存じと思います。

「英国の戦い」でドイツのメッサーシュミットBf109戦闘機をやっつけてドイツ軍の怒涛の進撃をくいとめ。英国がドイツに占領されずに生き残る上で決定的な貢献をした殊勲の戦闘機です。

Pixabay無料画像

 

 

でも、実は空戦そのものはメッサ―と一進一退だったらしい。

メッサ―を追い払ったように見えて、実はメッサ―の方で燃料切れになり、お家に帰らなきゃ。。。と退散していったので、いかにも「制空権を確保しました」というふうになった。

この当時、ヨーロッパの戦闘機は軒並み航続力が少なく。大陸内で飛んでいるうちは、燃料切れになっても、彼我入り乱れた前線のそこかしこに味方の補給施設もあったので、存分に空戦して、燃料切れになったらそのへんに降りましょう、ですんでいた。

太平洋のぽつねんとした島々を飛んでいた零戦とかとえらい違いですねーちなみに、零戦乗りが一番ほめるのが格闘性能でもスピードでもなく「安心していって帰ることのできる航続力」だったそうです。

零戦の偉大さがここに明確となります。元来、3000キロなんて航続距離を得るためには、燃料積みすぎとなって直線飛行もままならないはずなのに、満タンでも米英の新鋭機と互角に格闘するという狂った戦闘機になっています。要すればマラソンランナーなのに短距離選手の瞬発力も併せ持つバケモノでした。(バケモノになれた悲しい理由はこちら→グラマンと零戦)

代わって、スピットやメッサ―は、航続距離は925キロくらいしかなく。そのぶん機体、エンジンに振り分けることができて、これ以上ない俊敏な短距離選手になりました。

さて、英国の戦いではドーバー海峡が大陸と英国の間に横たわっており。直線距離で34キロと、短いようでいてその先は敵地であり。この時押せ押せで英国領空に殴り込んでいたドイツ機は、被弾しようがどうなろうがこの海峡を飛び越えないとそこで終了となってしまうので、勝っていても途中で背を向けて帰るしかなくなり。

スピットの方は文字通り自分の家の庭で戦っていたので、よゆうよゆう!でした。

連合軍戦闘機の行動半径の増加 http://ktymtskz.my.coocan.jp/E/EU5/bomb3.htm

 

 

こうして、防空戦では大活躍したスピットですが、攻める方になるとやっぱりからきしダメになり。長距離爆撃機についていくことができず、戦闘以前にそもそも戦場そのものに到達できずに、丸腰になったB17など爆撃機が大被害を受けることになってしまいました。

でも、戦闘機としての性能は申し分ないので、英国人はいろいろ考え。

「そうだベルリンに行こう」ということになりました。

その距離960キロ。八丈島から「そうだ京都に行こう(806キロ)」というのとまあまあ似たような距離である。

でも、これってスピットの最大航続距離じゃん?ベルリンまでいけないことはないけれど、そこでエンコだよ?

そこはイギリス人で、いろいろやって、航続距離を倍増した、スピットの長距離偵察型を作り上げてしまったのでした。

まずは、重量物を廃棄した。

敵と会っても、正面からドンパチではなく、逃げるが勝ちだ!が任務なので、重たい防弾装置や、機銃などはぜんぶ下ろしてしまった。

この結果、偵察型スピットの風防はすっきりというかのっぺりというかになり。

通常型の風防(上)https://togetter.com/li/1146070 と偵察型(下)https://ammonaitoh.blog.fc2.com/blog-entry-841.html の風防

 

機銃を取っ払ってスペースができた主翼の前縁の先っちょから胴体との接合まで全部燃料タンクを増設した。

機銃がなくなってすっきりした主翼前縁 http://blog.livedoor.jp/hyamagu3/archives/52270196.html

 

 

 

これだけで航続距離は倍増し、2254キロまで伸ばすことができたらしい。零戦の3350キロよりまだ少ないけれど。。。

それでも気が済まず、主翼下胴体中央に半月型の増設タンクを設置。

https://www.webmodelers.com/202308Kotobuki.html

 

 

一方、無理やり航続距離を倍以上にしたため、油温や油圧がやばくならね?とオイルタンク容量も増大しなければならなくなった。

この結果、スマートな曲線を描いていた機首下部のラインが、なんかぼっこりしたさえないデザインになってしまった。

https://ammonaitoh.blog.fc2.com/blog-entry-841.html

 

 

さらに、重量のバランスをとるためか微妙に尾部を延長し、垂直尾翼の形もへんなとんがり気味のかんじに変更。

https://majo44.sakura.ne.jp/planes/spit9/10.html

 

 

のっぺりした風防とあいまって、なんかスピットにしてはぼてっとした、痩せてるけどやぼったいスタイルになってしまいました。きっとケイト・ベッキンセイルが化粧を落としたらこんな感じになるんだろうなあ。

ケイト・ベッキンセイル https://www.cc9.ne.jp/~yokota/yoko-index.html

 

 

ところで、胴体下面に穴が開いていますが、これはうんちやお◎っこが出るのではなくて、写真機のレンズ穴なのでした。偵察機ですから。。。

https://www.webmodelers.com/202308Kotobuki.html

 

 

ちなみに、この写真を見て、子猫のおしりぽんぽんを思い浮かべるのはぼくだけでしょうか。生後間もない子猫は、まだ腹筋だのが弱すぎて自分でお◎っこやうんちができないので、母猫がなめなめ、あるいは飼い主さんがティッシュでそこをぽんぽん、と刺激して排出促進しなければならないのですよね。。。

https://www.youtube.com/watch?v=SjMSjSWlcUw&t=39s

 

 

 

もともと戦闘機なので運動性は抜群。でも燃料いっぱいに写真機、丸腰じゃあ、メッサ―相手に心もとないよねー、ということで、どうエンジンをいじったか、高空性能も充実させることができ。

でも、そのままだとパイロットが凍死・窒息死してしまうので、操縦席を与圧式にした。

このため、風防はねじ止めにして、むりやり圧力差で吹き飛ばないようにするなど、パイロットから見れば恐怖でしかない細工がなされ。でも、与圧なしで1万メートルまで上昇し、お◎んちんが凍っちゃうよりましか、と文句は出なかったようです。

こうして完成した偵察型スピットは、ダムバスター作戦のために重要な情報とかをすっぱ抜いて活躍しました。「遠すぎた橋」で有名なマーケットガーデン作戦(連合軍のオランダ奪還)でも情報収集に活躍したらしい。

動画Spitfire over Berlin https://www.youtube.com/watch?v=ljqPi-aVh8M

 

 

メッサ―の長距離型がロンドンまでお使いに、というのはできなかったようで、米英の飛行機がいかに余裕を持って作られていたかを示すエピソードでもありますねー

偵察型スピットは塗装もPRUブルーとかいうふしぎな色に塗られ、空に溶け込むようにして低視認性を達成していたらしい。でも、模型とか見ると、白黒の「インバージョンストライプ」が入っていて、一目で「あ、あそこに飛んでる」とわかっちゃうという、残念な塗装になっています。

与圧も実はあまりうまく作動しなかったが、幸いエンジンの熱がコクピットにつたわり、酸素はともかく、わりかし快適だったという情報もあり。

スピットのくせに遠出ができる不思議な偵察機。イギリスらしい飛行機のお話でした。

 

ではでは

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