ビーチギアのお話

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ビーチは夏の風物詩。ハワイアンでも聞きながら、のんびりビーチチェアでスマホをオンにして、すてきなHP「アーリーリタイア・軽飛行機で空を飛ぶ」にアクセスだ!

なあんて、くつろぐイメージの海岸ですが、船にとっては底なしの残酷さを発揮する、生と死の恐ろしい境界線だったりします。

このブログは飛行機乗りのブログなので、船というのは「飛行艇」のことです。

飛行艇は、船のくせに翼があるため、いったん着水したが最後、波にもまれて翼がもげそうになってしまい。

もげなくても、いつも転覆の危機にさらされているといってよい。要するに重心が高すぎて安定できないのである。(安定性のいい飛行艇は、飛行機としての性能がだめになっちゃいます)。

というわけで、着水したら、とっととビーチまで走ってゆき、陸揚げする必要があり。

波打ち際まで来たら、搭乗員が台車(正確には「浮袋付主車輪2個」と「尾部運搬車」のセット)を抱えて海に潜ってゆき。飛行艇の底の所定の場所にピン止め固定し、トラクターで引っ張ってランプから飛行艇を陸上のエプロンまで移動させます。


台車をつけた二式大型飛行艇(模型です)http://www.hasegawa-model.co.jp/product/e45/

 

 

こう書くと簡単ですが、どんぶらこと波のまにまに揺れる巨大な飛行艇を、ランプ際に仮止めしておくのがまず大変で、やれブイを投げるだの錨を下すだの、飛行艇パイロットは飛行士の前に船乗りでないとやっていけず。

なんとか波打ち際の浅瀬で飛行艇が仮止めできたら、上記のように台車の取り付けですが、これがなかなか危険な作業で、波がそれほどなくても、夏は灼熱の太陽で焼け死にそうになりながら、冬は厳寒の海で凍死しそうになりながら、台風通過近しなどの時は、それこそ荒れ狂う波にタコ殴りにされながらという、精神的にも肉体的にも極限の作業になり。

荒波で、取り付けかかった台車が外れて艇底を直撃!大きな穴が開いて飛行艇が沈んじゃった、なんてこともあったようです。

この辺は、以下のサイトに大迫力で描写されているので、ご訪問ください→http://www.aero.or.jp/web-koku-to-bunka/2009.11.15koshida.htm

毎回必死になって台車をつけなくても、最初から台車がついた飛行艇は作れないの?

それがなかなかそうはいかず。

飛行艇の艇体、特に底の形状はとても重要である。

水の抵抗というのはものすごく大きく、水上滑走の強力なブレーキとして作用してしまうため、艇底にステップという段差をつけて、滑走(滑水)時にはある程度まで速度が上がったらステップより上は水面から離れて抵抗を激減させる、というような機構があってやっと離水できたりします。


ステップの一例amazon.co.jp/スペシャルホビー-SH72162-72-ショート-サンダーランドMk-Ⅴ/dp/B07R682D3P

 

 

そういった船底に、台車みたいなものがついていたら、抵抗以前に、まるで煉瓦で船を沈めるようになってしまって、離水どころではなくなってしまい。台車は基地の方で保管していて、飛行艇が着水してランプ(滑走台)に迫った時点で海に投げ入れて、飛行艇側に拾ってもらう(そのために浮袋が付いていた)という要注意な作業が必要だったらしい。

ちなみに、往年の巨人飛行艇ドルニエドックスですが、なぜうまく運航できなかったかの理由の一つに、重すぎて、何とか離水しても水面から500メートルくらいまでしか上がれなかった、というのがあり。これじゃあ実用高度もへったくれもないですよねー

陸上機に比べて、船の形にして、波を切ったり波頭にたたかれても壊れないようにするために、いかに重く、スピードの出せない形になってしまっているかが浮き彫りになるのでした。


ドルニエDoX飛行艇 https://www.ne.jp/asahi/airplane/museum/cl-pln2/TW010.html

 

 

ただ、飛行艇というものはなぜか「錨」にこだわり。錨なんて乗せなければ、著しく軽くなるんじゃね?なんて思うのですが、今日のUS2飛行艇に至ってもちゃんと錨を乗っけており。


US2飛行艇と錨

https://pbs.twimg.com/ext_tw_video_thumb/1124974002961694722/pu/img/IoBZR12VpauyvgGj.jpg

 

 

要するに、錨の無い船なんて、クリープの無いコーヒーだ!というわけで、飛行艇は何よりも前に船ですから、錨は必須ということなのかもしれん。

ううむ、船乗りというのは狂った人種ですねえ。飛行機乗りがどう思われているかは知らないけど。。。。

というわけで、昔の飛行艇は、泣く泣く、毎回生命の危険を冒して台車を装着するしかなかった。

しかし、技術の進歩とともに強力なエンジンが生まれ。戦後になると、台車をくっつけても離水し、それなりの高高度に上がることができるようになったのでした。

そのお手本が「PS1」

舟底に台車ではなく、胴体の横に大きな車輪がついています。


http://hikokikumo.net/HIs-Mil-PS1-01-19771129-Kitagawa.jpg

 

 


https://pbs.twimg.com/media/FArZPUfVcAI4upK?format=jpg&name=large

 

 

着水して、ビーチ間際まで走ってきたら、機首から旅客機みたいに前輪を出し、胴体の車輪もカニの目みたいににょごご、と伸びて、前輪、主輪が海底に届くまでは船みたいに、そこから先は陸上機みたいに車輪で滑走して(動力はあくまでプロペラ)、器用にというかぶきっちょにというか、ランプを上がっていきます。


http://hikokikumo.net/HIS-Mil-PS1-000index.htm

 

 

離水の時はこの逆で、最初は海底を歩いてじゃなかった車輪でともかく移動してゆき、足というか車輪が海底に届かなくなったら、泳いでじゃなかった海上航走に移るらしい。そのあと、にょごご、と車輪を機内に格納して、本格的に離水。


http://hikokikumo.net/His-Mil-PS1-09-19790705-konan-01-kitagawa.jpg

 

 

こうして、フロッグマンが命を懸けて毎回台車を装着する必要がなくなり。かなり楽ちんになることはなった。

でも、地上で駐機しているPS1を見ると、つい、このまま陸上の空港を滑走して、離陸や着陸ができないかなーなんて思ったりします。


ビーチギアを展開して、陸上機みたいなPS1

http://hikokikumo.net/HIS-Mil-PS1-000index.htm

 

 

でも、そんなことをしたら、たちまち衝撃などでこれらの脚はもげてしまい、擱座炎上になってしまいます。

ということから、この脚は、降着装置すなわちランディングギア」ではなく「ビーチギア」と呼ばれています。あくまでビーチの斜面(ランプ)を上り下りするためのギア、ということである。


PS1の格納メカニズム。http://www5a.biglobe.ne.jp/~t_miyama/lgindx.html

 

 

しかし時代は進み、エンジンもそうだが、素材技術とかも進み、軽く、細くても強靭な脚が作られるようになった結果、文字どうりランディングギアを設置した水陸両用飛行艇もできるようになりました。


ランディングギアを装着して水陸両用になったUS1。外見はPS1と変わらないなあ

https://www.shinmaywa.co.jp/aircraft/us2/us2_history04.html

 

 

アメリカなどでは、カタリナ飛行艇など、戦前戦中から水陸両用飛行艇を作っていた。日本は台車型にこだわったが、これもエンジンのチョイスとか、飛行機としての性能を極限までひきだそうとした日本と、飛行機としては凡作でも、いつでもどこでも使うことのできるタフなのを目指したアメリカの差があると思います。


アメリカのカタリナ飛行艇。タイヤのでかさに注目。

https://plaza.rakuten.co.jp/nobtk/diary/201906090000/

 

 

これで飛行艇の進化は究極に達したか?いえいえ「水陸両用」のさらに斜め上をいく恐ろしい機能を備えた物体が存在しています。

その名も「グラマン・ダック」。

ダックくんは、離着水、離着陸の他に、離着艦もできるのでした。


空母に降りるために、巨大な着艦フックを装備したダックくん(垂直尾翼下面)

https://naval-encyclopedia.com/naval-aviation/ww2/us/grumman/J2F/grumman-j2f-2A-VMS-3-StThom-VirgonIsl1940.jpg

 

 

水上機なのか飛行艇なのか?珍妙な姿かたちのダックくんですが、現代のジェット戦闘機も顔負け、制動索に着艦フックをひっかけて勇ましく着艦していたのでした。


現代の戦闘機の着艦。制動索とフックの作動がよくわかる一枚

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/c/cf/FA-18_Trap.jpg

 

 

でも、ダック君のさらに上をいく至高の存在が。

その名も、ウオーラス飛行艇。

以前の記事にも記載した通り、飛行艇のくせに軽飛行機の小ささと軽さで、ちゃんとランディングギアを持っているばかりか、着艦フックはないくせに、なにげに陸上の滑走路みたいに空母に着艦していたのでした。


空母に着艦するウオーラス飛行艇。(パブリックドメイン)

 

 

ダックくんやウオーラス君は、洋上の空戦で撃墜されて落っこちたパイロットを波間から拾い上げ、あるいは空母に、あるいは陸上の飛行場に、あるいは最寄りの島々や艦艇に送り届けるという、とても重要な活躍をしたらしいです。

カナダやアラスカなど、水たまり(海も含めて)はいっぱいあるが滑走路はなかなか。。。という地域では、主に下駄ばきの水上機が、荒れ地を短距離で離着陸できるブッシュプレーンとともに、現地の重要な交通輸送機関として活躍しているそうです。


ターボプロップエンジン推進による、いまどきのブッシュプレーン

http://blog.covingtonaircraft.com/2019/05/10/mike-pateys-draco-the-coolest-stol-aircraft-ever/

 

 

ではでは。。。

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