以前「空飛ぶクルマ」について書きましたが、今回は船なのに空を飛ぶ、その名も「飛行艇」というふしぎな物体についてお話させていただきます。
その前に一つ告知。久しぶりにアメブロランキング1位に返り咲き。ブロ友の皆様に感謝させていただきます。今回は「ブラジル」というベタなジャンルですね。。。
さて、本題です。
飛行艇以前に、水上機、というのがあり。
Pixabay無料画像
飛行艇との違いは、フツーの陸上機にフロートという、通称「下駄ばき」という姿かたちになっていることです。飛行艇は、文字通り船に翼を付けたような形。
2枚の画像でわかるように、1人乗り単発機みたいな小さいのは水上機、旅客や荷物をたくさん載せたい場合は飛行艇が適している。
水上機が全盛となったのは、1930年ごろ。日本でいうと昭和のはじめですねー、なぜ全盛となったのかは、ひとえに「当時、陸上の滑走路が整備されていなかった」ことにつきます。
当時の滑走路は、だいたい「広い原っぱ」であり、現在のような 長大で舗装されたのはなかなかなく。そんな原っぱから飛び上がったり着地した陸上機は、大きな車輪で、でこぼこの地面でもひっくり返らないように工夫していました。
ロッキード・ベガ連絡機 http://www.ne.jp/asahi/airplane/museum/cl-pln2/TW007.html
山あり谷ありの陸上では、原っぱといっても広さに限界があり。その限界の中で離陸できるようにするには、大きく、分厚い翼で、離陸速度を極力低くしなければならず。
しかし、これは飛行機の最大の利点であるスピードを殺してしまうことにもなり。大きいという事は重くて、その分エンジンの馬力を殺してしまうし、分厚いという事は、すなわち空気抵抗が大きくなって、スピードが出せなくなってしまうことを意味するからです。
そういった状況から、スピード命!の競争機などは、なるべく翼を細く、小さくしたいのですが、そうすると離陸速度も著しく早くなって、いくら滑走路が長くても足りなくなってしまい。
これが海だったら、滑走(滑水)距離は無限です。波の穏やかな湾内を海岸から外洋向けに走っていけば、障害物となりうる山とかも避けることができ。
えええ、でも大きなフロートを付けたら、空気抵抗とか重量増加とかでスピード落ちちゃうんじゃないの?
ところが、翼面積と断面を減らして得る効果が、フロートで発生する抵抗を補って余りあるぞ!という事がわかり。
シュナイダー杯など、水上機が世界速度記録をガンガン塗り替えるようになりました。
水上機:マッキMC72 https://grabcad.com/library/idrocorsa-macchi-castoldi-mc72-1934
確かに、陸上機の降着装置なんて重量物のかたまりですからねー大きな下駄をはいていても、陸上バージョンと重さとかはあまり変わらなかったのかもしれん?
イメージですが。。。
陸上機の降着装置をずっしり金地金250g(左)とすると、
水上機のフロートは、Pet容器(右)なみ、みたいな感じ。
無限の滑走路が使える、という事は、いくらでも巨大な飛行機を作れるということでもあり。
当時のエンジンはあまり信頼性もなかったので、外洋を横断するような航路では、海上に不時着できる飛行艇は安全面でも貴重な存在であり、巨人飛行艇の全盛期が生まれました。
マーチンM130 チャイナクリッパー飛行艇
ショートサンダーランド
amazon.co.jp/スペシャルホビー-SH72162-72-ショート-サンダーランドMk-Ⅴ/dp/B07R682D3P
ところで、無限の滑走距離はあるものの、飛行艇の滑走は水の上です、という根本的な課題があり。
硬い地面の上を滑走する陸上機は、機首上げするもしないも操縦かんの操作一つです。
ところが、「やわらかい」液体の上を滑走する飛行艇は、ちょっとした波のかげんとかで、操縦かんを操作してもいないのに機体が水面から沈んだり浮き上がったりしてしまい。
それだけならいいのですが、浮き沈みで機首上げの角度が変わってしまう、つまり翼のアタックアングル(迎角)が勝手に変わり、急浮上や失速、ついには操縦不能に陥って中途半端な高さから水面に激突、大破なんて大事故が起こりかねず。
ぼくは陸上機乗りなので、詳しくはわかりませんが、水面からの離水はなにげに神のような技術が必要であり、荒れ狂う飛沫の中でエンジン全開なんて狂ったまねはとてもできません。もし読者の中で水上機パイロットがいたら、ぜひこのへん教えてくださいね。
https://www.youtube.com/watch?v=En0JX4HmSuo
水上機の狂った離水。よくプロペラを壊さないなあ
実際、日本の二式大型飛行艇で、離水失敗事故が相次ぎ。離水角度指示器というのを取り付けて、この指示器を「ものさし」にして、どんな波を食らおうが機首上げ角度を一定に保つようにしたら、事故がなくなったそうです。
この画像の③が離水角度指示器。
画像出展:http://hikokikumo.net/AT-Kanzasi-000.htm
ちなみに、上記画像の⑥を「かつおぶし」といって、このでっぱりがうまく波を切って機体、特にプロペラやエンジンに飛沫がぶち当たることを避けることができるようになったらしい。
機首下面、緑から白に塗装が変わったすぐ横に突出しているのがかつおぶし(スプレーストリップ)です。
画像出展:http://hikokikumo.net/AT-Kanzasi-000.htm
この飛沫というか波しぶきは、飛行艇にとって致命的な打撃となってしまうため、これを打ち消すため、飛行艇の設計では涙ぐましい努力がはらわれており。例として、最新の飛行艇US2の機首下面に独創的な工夫を見ることができます。
https://www.mod.go.jp/msdf/iwakuni/about/unit/71fs.html
機首下面のドアップで説明します
①「溝形波消し装置」。
出展:https://www.shinmaywa.co.jp/aircraft/us2/us2_capability.html
②波消し装置のチャイン接続部(スリット)
ここから「側面へ波を逃がす(Wikipedia)」らしい。
③水平に波抑え板があり。
④機首のスプレーストリップ。
⑤飛沫に隠れているけど、側面スプレーストリップ。
二式大型飛行艇のシンプルな「船底」に比べすごい発展・進歩ですね。。。。
しかし、時代は変わり、ここまでして離着水する必要もなくなってきた。
それは
◎エンジンの信頼性が向上し、大西洋だろうが太平洋だろうが、ピストンエンジンだろうがジェットだろうが、洋上飛行しても全然へっちゃらになった。
◎フラップなどの技術革新により、薄く小さな翼でも離着陸速度を低くすることができるようになった。
◎一方で、3000メートル級の長大な舗装された滑走路が世界中にでき、ジャンボジェットでも問題なく離着陸できるようになった。
◎飛行艇は、上記の波消し装置などの工夫のほか、機体自体を着水の衝撃や恐ろしい波しぶきの打撃に耐えるようにする必要があり、その分余計に頑丈つまり重い飛行機になってしまう。
◎主翼やエンジンが飛沫に当たらないようにするため、縦長の機体断面や、船のように機体下面を整形しなけれならず、余計な空気抵抗が生まれる。
等デメリットも多く、飛行艇はいまや絶滅危惧種なのかもしれません。
一方で、日本のように、無数の小島が散らばる国での飛行場のない島々の間の連絡や、ヘリコプターが飛んでいけない天候、大荒れの海面にも着水して救難する能力。カナダなどでは、湖水に着水・給水したうで、山火事上空まで飛んで行って放水・消火するなど、飛行艇が必要な場面も多々あるとは理解します。
ところで、なぜ飛行艇の投稿をしたのか?
それは、とある吉日、ふとこんな写真に遭遇し。
ウオーラス(Walrus)飛行艇 (パブリックドメイン)
写真の説明に「Walrus_carrier_landing」とあり。
飛行艇のくせに、海の上に降りないで、航空母艦に降りているのでした。ははは
確かに陸上機が着水するのはできないけれど(墜落は別)、飛行艇ですからねーどっちでも好きなほうに降りちゃえ、ということなのでしょうか。
ちなみに、この飛行艇は、飛行艇のくせに4名くらいしか乗ることができず、全長も10.2m、全幅も14mということで、セスナをちょっと大きくしたくらいの、軽飛行機じゃんという、ふしぎな飛行艇です。でも、ナチに撃墜され、海に落っこちた飛行機の乗員を救助するために大活躍したという、とても心優しい飛行艇だったそうです。
へえええーと、飛行艇に改めて興味がわき、今回の記事にしました。
ウオーラスのカラー画像
https://www.ne.jp/asahi/airplane/museum/cl-pln9/SMWFB.html
ちなみに、ウオーラス飛行艇はじめ、この記事の大多数の画像を「古典航空機電脳博物館(https://www.ne.jp/asahi/airplane/museum/index.html)」から引用させていただいています。きょうび古典機でもレストア後のカラー写真がいっぱいありますが、こうゆうプラモの箱絵みたいなのも、見るだけでわくわく!いいなーと思っています。
ううむ今回はあんちゃん向けになってしまったかな?、というわけで、素敵女子のみなさまに動画を一つ投下して、結びとさせていただきます。
https://www.youtube.com/watch?v=Rjzf_cWzlp8
ではでは。。。
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