レアルプラン成功のひみつ(ブラジル経済の基礎知識③)
90年代初め。コロール大統領は罷免。イタマール副大統領が昇格し、大蔵大臣にフェルナンド・カルドーゾ氏が就任しました。
この時の経済状況はいわゆる「4桁インフレ」そして94年6月には前月比50.8%(年率換算13,083%)の文字通り狂乱インフレになっていました。
毎日物価が2倍3倍に上がってしまう状況で、
―給料はもらっているが、その給料が生活を賄える金額なのかだれにもわからない。価値が著しく減っていることだけがわかる。
―来月の家賃はいくらになるのか?未払いになりけり出されたら新たな家の家賃は?著しく高くなっていることだけがわかる。電気代、水道代も同様。
―不動産購入など、多額の分割払いは自殺行為(Financial1.8)になった。
―今日買えたパンは、果たして明日買えるのだろうか?
と、生活の根幹を脅かす事態に。貨幣が崩壊してしまい(1)価値の尺度、(2)交換(決済)手段、(3)価値貯蔵手段として機能しなくなった。そして国家財政の破綻・国家機能(警察、医療、電気、水道、交通、通信など)喪失の危機が発生。
という絶体絶命の状況に。
さすがにカルドーゾ大臣(以後FHC)は奇をてらった、かつぎ技(Financial1.6)のけれん芸はせず。オーソドックスの王道で勝負しました。
それが、「経済の三脚」すなわち「経済を支える3つの支柱を構築すること」となって現れました。
レアルプランの要「経済の三脚」
この要諦は
1.為替アンカー:「ドルとの兌換紙幣」となり、レアル(中央銀行と政府)の信用が回復
2.インフレターゲット:金利調整等に基づくインフレ変動範囲の調整により、爆発的インフレのストップに成功
3.財政プライマリー収支の健全化:財政政策の規律維持により、財政面での立て直しに成功
ひとつひとつ説明します。
アンカーというのは「錨」のこと。為替が嵐の中の船みたいに大揺れにならないよう、錨でしっかり安全な港内に「釘止め」してしまおうという施策。安全な港とは、「米ドル」です。「兌換紙幣」つまりいつでも1レアル=1ドルで価値が維持されるよという「保証」が錨です。アンカーが打ち込まれたその瞬間、1レアルは揺るがぬ価値(Financial1.14)を持ったお金に復活しました(実は当時の貨幣だったクルゼイロ・レアルの1ドル相当額であった2750クルゼイロ・レアルを1レアルに変則デノミしたので、新たに生まれたといったほうがいいかもしれません)。
インフレターゲットとは、昂進しようとするインフレを大統領の一声で価格凍結という強権的なやり方ではなく、レアルをドルの外貨準備高と連動した供給量で維持することによってレアルの貨幣としての価値を保ちつつ、金利の上昇によってインフレ圧力を冷却する、というなんてことないオーソドックスな調整法を採用したこと。このためブラジルは高金利国家としての位置から抜け出せなくなってしまうことにもなりましたが。
インフレはお金の価値の不足でありこの不足は実は政府の無責任な財政から発していたところが大きく(そもそも借金でブラジリアを作ったという不純な行為が発端かも?)。これが財政政策の規律維持つまり節約と健全財政の実現により、プライマリー収支の青字化(Financial1.2b)を達成しました。これが3番目の柱です。
この結果、今日1レアルで買えたものは明日も1レアルで買えるようになり。給料日に有り金を全部スーパーで生活必需品に替える必要もなくなって、爆買い消滅による価格の鎮静も始まりました。購買力が戻り始め、しかし供給は続き。生活者の実感としては、レアル導入の初めに値段が高くなったけれど、それ以上上がらなくなったので、無理して買わずに済み、また、売るほうでもコスト割れする低価格で売ることを強制されなくなったので「価格凍結がひっくり返るまで売らないぞ」と供給ストップをしないでもすむようになった。こうして信じられない短期間でインフレは終息し、健全な経済が戻ったのでした(ちょっと極論・大げさに書いています)。
なぜレアルが成功したのか?
- とにかく「信用」を基本に置いたから。突然のPACOTE(価格凍結)投下ではなく、Focusレポート(中央銀行による市場や民間への経済情報説明・説得)、金融政策決定会合(COPOM)議事録の発表など、政府がつとめて産業界・国民へ説明し。透明性が増大し信頼の回復に役立った。最後はドルの信認に頼ってなんとか成功した。
- 正直に政府の財政破綻を認め、財政支出を抑えた。つまり、今までやれパチンコだやれ競馬だ、と散財していた親父が、すっぱりやめて借金なしでも生きていけるようになったみたいな感じ。でも実はそれでも足りなくて、家族の中でお金を稼がない赤ん坊は曲馬団に売り渡して借金を清算した、みたいな感じ。
しかし、なりふり構わぬ財政均衡により、医療や教育が犠牲になり、公的医療機関では廊下の床にまでアテンドを待つ重病患者が転がっているという状況に拍車をかけることにもなりました。こうした弱者切り捨ては貧困層の恨みを買い、共産系のルーラ大統領当選になりました。ルーラ政権やその後のジルマ政権では、「曲馬団に売られた子供を取り戻すため」に「みんなのブラジル(Brasil Para Todos)」というバラマキ政策をやってしまい。財政赤字(Financial1.2b)が拡大し、狂乱インフレに逆戻りか?という懸念が発生したため、共産主義者を除く国民が「汚職疑惑のある奴でなければ誰でもいい、とにかくアカを大統領から外せ」と、たまたま出てきたボルソナロが大統領になりました。
さて、ついに、この「狂乱インフレ三部作」の一番重要なまとめにたどり着きました。「為替や金利が大きく変動し、予測不能のブラジル」に投資するかどうかは、なにを基準・根拠にして判断すればいいのか?
それは、ずばり!「経済の三脚が守られているか否かを見極めることにつきる」です。
つまり、為替が安定しているか。そのために金利を過不足なく調整しているか。そしてそもそも台所事情は青字か。これがOKであればブラジルへの投資もOKです。
で、2019年10月時点での3脚がどうかといえば
◎1ドル4.15レアルでレアル安すぎ。ただし
◎世界のマイナス金利、ブラジルもリセッション傾向にある中、金利も低くすんでいる(政策金利5%)つまりインフレの抑え込みに成功している。
◎そして一番の懸念である社会福祉改革が議会通過し、財政健全化が望める。
ことから、まだまだ経済サイクルは後退期から回復期の底にあるけれども、今後は成長が望める、と考えています。
もちろん個人的見解であり、投資は皆さんの自己責任でお願いします。
最後に一言。FHCにしろボルソナロにしろ「医療福祉」「基礎教育」といった大切な赤ん坊たちを見殺しにすることで経済均衡を危うく保っている状況(国自体が福祉的なアルゼンチンとは真逆)。こうした赤ん坊たちを「曲馬団(困窮のどん底、ホロコースト)から買い戻す経済力」が一日も早く得られることを切に望んでいます。
ではでは、ちゃんちゃん。。。
経済サイクル
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